もともと大野は紡績工場をやっていました。昔の紡績工場では若い女性が働いています。若い女性がたくさんの機械を持って効率よく働き、戦前に世界一になった。それと比べて自動車工場のつくり方はどうもおかしい。自動車の素人だったからこそ、生産性を改善できたということを自分でも言っています。敢えて素人の目を持ち込んだことで問題点を把握できたのです。

トヨタがよかったのは、紡績で一回成功して、その発想を自動車にも持ち込んだことです。だから通常の自動車メーカーではクルマをつくるときに生産ラインを止めるという発想はないわけです。ところが、トヨタの紡績では当たり前のことだった。一人の人間がたくさんの機械を持つのは当たり前、不良品が出たら機械を止めるのもごく当たり前。紡績で働いていたのは、みんな地方から来た若い女性ですから、素人を使って世界で戦えるシステムをつくっていた。紡績で世界を経験したのが大きかったのだと思います。

どれをもって家訓と言うかが非常に難しい会社です。佐吉の考え方、喜一郎の考え方、紡績での経験、いろんなものがうまく結びついた家訓や教訓が一体となって、今のトヨタ式に結実した。それを今も守っているから、トヨタでは家訓が今も生きている。だからこそ、トヨタは家訓を会社のシステムにまで高めた会社として、ほかにないユニークな会社と言えるのです。

▼豊田綱領
一、上下一致、至誠業務に服し、産業報国の実を挙ぐべし
一、研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし
一、華美を戒め、質実剛健たるべし
一、温情友愛の精神を発揮し、家庭的美風を作興すべし
一、神仏を尊崇し、報恩感謝の生活を為すべし
▼トヨタ流の考え方
・自分の城は自分で守れ
・改善は知恵とお金の総和である
・豊田家の全財産を失っても納屋だけは守れ
・人間性尊重
・安く買うな、安く売れるようにしろ
・沈鬱遅鈍
・改善は景気のいいときにやれ
・経費を改善しろ
・9倍差があるということは、日本には9倍のムダがある
ジャーナリスト 桑原晃弥

1956年生まれ。元トヨタ自動車社員でカルマンを設立した若松義人氏(故人)とともに、トヨタ関連の取材を多く担当してきた経済ジャーナリスト。著書に『トヨタ 最強の時間術』『スティーブ・ジョブズ 驚異の伝説』ほか多数。
 
(構成=國貞文隆 写真=ロイター、アフロ)
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