さらにこの研究で重要なのが、「CEOと従業員の、ビジョンについてのコミュニケーションが高まるほど、企業の成長性も高まる」という結果です。では、どうすればコミュニケーションの質が高まるのか。この疑問は、近年の経営学の特に大きな研究テーマです。

なかでも、リーダーの「言葉の選び方」についての米パデュー大学のシンシア・エンリッヒたちの研究を取り上げたいと思います。

彼女の歴代のアメリカ大統領の演説を詳細に分析した研究によれば、リーダーの言葉は「イメージ型」と「コンセプト型」に分けられます。イメージ型とは光景や映像が浮かぶ、感性に訴える言葉。コンセプト型は、論理的な解釈に訴える言葉です。

たとえば、「働く」という言葉がコンセプト型なら、「汗をかく」はイメージ型です。統計分析の結果、イメージ型の言葉を多く使う大統領のほうが、カリスマ性が高く「偉大な大統領」と評価されているという結果が得られています。情景が浮かぶメタファー(比喩表現)、五感に訴える言葉を使えるかが、リーダーの資質に寄与するのです。

この点から見て、注目すべき人物は、たとえばリオ五輪サッカー男子日本代表監督の手倉森誠氏でしょうか。手倉森氏はダジャレ好きで、選手たちとのコミュニケーションでもイメージ型の言葉を使い、モチベーションを高めているそうです。そして、選手が結果を出せなくても信頼して起用し続け、五輪出場権を勝ち取りました。

入山章栄
1996年慶應義塾大学卒業、98年同大学院修士課程修了。2008年米ピッツバーグ大学経営大学院博士号取得。13年より早稲田大学ビジネススクール准教授。
 
(伊藤達也=構成 奥谷 仁、的野弘路=撮影)
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