さらに快進撃を支えてきた「取引の手軽さ」には、法令上の問題が指摘されています。メルカリは売り手の得た売上金を、最大1年間はメルカリ内に滞留させる仕組みをとっていますが、これは資金決済法の「資金移動業者」に該当すると考えられます。その場合、会社の破産や経営不振に備え、滞留している資金の100%+αの金額を供託等の手段で保全したうえで、自社資産と切り分けて管理しなければなりません。メルカリは本稿執筆時点(12月15日)で業者としての登録はありません。

筆者が、「法令に基づいて預託金が適切に積まれているのか」と質問したところ、「現状認識に大きな隔たりがある」(メルカリ・リーガルグループマネージャー城譲氏)として明確な回答は得られませんでした。その後、本誌から再度質問を送ると、広報担当者から「資金移動業の要件に該当せず、資金決済法上の適用は受けない」としたうえで、「受領した売上金の保全については、上記回答の通り別口座で管理し万全を期しております」との回答がありました。10%の取引手数料を引いた売上金の全額を別口座で管理するというのは、常識的には考えられません。銀行などに手数料を支払い、履行保証金保全契約(いわゆる銀行保証)または信託契約を結べば、全額をわざわざ寝かせずにすむからです。

金融庁が警戒強める「預り金」のゆくえ

本件について金融庁が警戒を強めているのは、メルカリが売り手の資産を保全しないばかりか、売上金を最大1年間滞留させる仕組みで、出資法における「預り金規制」をど真ん中で破っていることにあります。

出資法2条では、「一般大衆から預り金の受入れを行い、その業務がひとたび破綻をきたすようなことがあれば、一般大衆に不測の損害を及ぼすばかりでなく、社会の信用制度と経済秩序を乱す」として、ほかの法律(銀行法、資金決済法など)において特別の規定のある者を除き、「預り金」を禁止しています。「預り金」とは預金などと同じ経済的性質を有するもので、次の4つの要件のすべてに該当するものです。「不特定かつ多数の者が相手であること」「金銭の受け入れであること」「元本の返還が約されていること」「主として預け主の便宜のために金銭の価額を保管することを目的とするものであること」。これはメルカリ以外の何者でもありません。

売り手から預かった資金がどう取り扱われているか。メルカリの創業者で社長の山田進太郎さんは、ネット系企業の経営者が出席する会合で「メルカリの成長ドライブは預かる(売り手の)資金を広告宣伝費に使うことだった」と豪語されたことがあるようです。メルカリの広報部はこの発言を否定していますが、山田さんの発言を聞いた経営者が相次いでフリーマーケットアプリに参入しており、影響があったことは否定できません。これが事実だとすれば、売り手の資金をすぐに還流させるべきところを社内に滞留させ、その資金を宣伝に使い顧客をかき集めて急成長を演出していることになります。

他方で、警察当局は、メルカリに限らず、フリーマーケットアプリ全般で多数の偽ブランド品や盗品の出品が行われているとみています。出品物のほとんどが10万円以下の単価で、犯罪収益移転防止法で本人確認義務が求められる金額を下回っていることも事態を深刻化させています。これらのアプリでは架空のメールアドレスと借名口座を組み合わせることで、匿名取引が可能です。警察当局は、盗品を現金化する手段として、警戒を強めているのです。

「グレーゾーンでも、ベンチャーは大手が参入しないところを狙う」と、ベンチャー界隈の重鎮は豪語します。しかし、現行法では違法かもしれない取引で育つユニコーンは消費者の安全や信頼を踏みつけているのではないでしょうか。

注1:「ダウンロード数は日米合算6,000万、月間の流通額は100億円超に達し、日本最大のフリマアプリ」という(2016年12月2日のリリースより)。https://www.mercari.com/jp/info/20161201_cm_kojiharu/
注2:オンラインゲーム内の物品を、現実の世界の金品を代価として取引をすること。オンラインゲームでは有料の「ガチャ」などにより、貴重なアイテムが当選することがある。ぱちんこ店では「大当たり」で得た賞球を特殊景品に換え、さらに店外の交換所で現金に交換できる。現状のフリマアプリでは、これと同じことができる。

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