2014年のマウントゴックスが破綻した影響は?

ビットコインの流通量は、時価総額で約52億ドルにのぼるとされる。全世界で2015年11月まで取扱業者は約10万社。1日当たり取引委件件数は約17万件に達する。日本でも1日、数億円分が売買されている(金融庁)。ちなみに国内でビットコイン支払可能な店舗は、ネット店舗を含めて約1400店と、まだまだ少ないといえる。

『まるわかり FinTechの教科書』(丸山隆平著・プレジデント社)

仮想通貨はその移転が迅速、容易で匿名での利用が可能であるために、マネーロンダリングなどに悪用されるリスクが国際的に指摘されている。実際に海外では、コスタリカの資金異動業者が匿名性の高いマネーロンダリングの手段として仮想通貨を用いたリバティリザーブ事件が有名で、政府間機関のFATF(金融作業部会)はマネーロンダリング、テロ資金供与対策の国際基準勧告を作成し、世界190以上の国・地域に適用している。

日本国内では2014年、取引量で当時世界最大の規模の、ビットコインと法定通貨の「取引所」を運営していた業者「マウントゴックス」が破綻したことが大きなニュースとなった。破産手続きを通じて、同社は債務超過に陥っており、破産手続き開始時点で、顧客から預かっていた資金やビットコインに比較して、実際に保有する資金やビットコインが大幅に足りないことも明らかになった。

その後、同社の代表が顧客から預かった資産を着服していた容疑も生じ、代表者は業務上横領で逮捕された。日本ではこの事件が大きく報道されたことを機に、「ビットコイン=仮想通貨=危険」という認識が広がった。しかしその後、事件の詳細が報じられるにつれて、「悪いのは運営会社および経営者であって、仮想通貨・ビットコイン自身の素晴らしさは変わりない」という論調が高まっている。

仮想通貨ビットコインは、金融サービスの土台そのものを揺るがす可能性を秘めていると、フィンテック業界では非常に注目されている。

それはなぜか?

フィンテックの登場により、金融業は情報業の側面が重要視されるようになった。情報(information)とは、あるものを「form」=型にいれたものという意味だ。つまり、情報には、内容(コンテンツ)と入れ物(容器=メディア)の2つが必要なのだ。ビットコインが注目されるのは、現状多くのフィンテックが「入れ物」にかかわる技術革新であるのに対して、仮想通貨ビットコインが、内容(コンテンツ)そのものにかかわるからである。

ビットコインはお金の革命、端的に言えば新しいお金の発明なのだ。だからこそ、今後のフィンテックにおいて、重要な位置を占める可能性が無限大にあると考えられる。いわば、従来の金融システムを根本から揺るがしかねない、あるいは従来の規制の枠組みから完全に飛び出しかねない可能性をもっている。

仮想通貨が画期的で、これほど注目される本当の理由は、その革新的な仕組み(技術)、および可能性の価値なのである。

※本連載は『まるわかり FinTechの教科書』(丸山隆平著)の内容に加筆修正を加えたものです。

丸山隆平(まるやま・りゅうへい)
1948年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。1970年代、日刊工業新聞社で第一線の経済・産業記者として活躍。企業経営問題、情報通信、コンピュータ産業、流通、ベンチャービジネスなどを担当。現在、金融タイムス記者として活動中。著書に『AI産業最前線』(共著・ダイヤモンド社)などがある。
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