●和解を阻むよくある障害

次の例は、なぜ裁判になる前に和解するほうが当事者にとって得な場合が多いのか、を説明するものだ。アクメという会社がベイカーという会社を契約違反で訴えたとしよう。

弁護士を介して両者は関係書類を交換し、意思決定分析を行う。アクメには裁判で10万ドルの賠償金を勝ち取る可能性が50%、裁判に負ける可能性が50%あり、予想される賠償金の平均額は5万ドルだと、どちらの側も判断する。それぞれの側に1万5000ドルの裁判費用がかかるとすると、アクメが受け取る賠償金額が3万5000ドルから6万5000ドルの間なら、どんな金額での和解でも判事に自分たちの運命を決めてもらうリスクよりましだと双方が考える可能性がある。つまり、訴訟の勝算とリスクについての両当事者の期待がほぼ一致しているならば、訴訟を避けることで節約できる金額から可能な合意の範囲が生まれる。当事者にリスクを避けたいという気持ちが強いほど、合意の範囲は広くなる。

この基本的な経済モデルによって、なぜほとんどの紛争が和解によって解決されるべきなのか──そして実際にそうされているのか──が説明できる。しかし、弁護士とクライアントが和解という線で合意するまでには、何カ月もの──ときには何年もの──月日を裁判に費やさなくてはいけないことが多い。和解プロセスには以下に述べる3つの戦略的側面がある。これらの側面を知ることで、弁護士が協力者ではなく、問題の一部になりがちな理由がわかるはずだ。

[1] 認識に影響を及ぼす

どちらの当事者も勝算についての相手の認識に影響を及ぼそうとする。訴訟当事者は形勢を有利に見せようとし、とことん争うつもりだと明言したり、そのような印象を与えようとしたりする。2陣営が争っているときに片方が和解を申し出たら、相手はそのチャンスをとらえて提示された条件をはねつけ、優位に立つ可能性がある。

[2] 訴訟費用に影響を及ぼす

訴訟当事者が、巨額の訴訟費用を生じさせることで相手にダメージを与えられると思っている場合にも、和解という選択肢は除外される可能性がある。1例を挙げると、開示の際にスミスがジョーンズに長い質問書を送るとする。質問をつくる時間はたかが知れているが、ジョーンズがそれに答えるためには何時間もの時間が必要だろう。ジョーンズは仕返しのために、開示手続きをスミスにも同様に大変なものにしてやろうという気になるかもしれない。結果は消耗戦だ。

[3] インセンティブに影響を及ぼす

弁護士の報酬が時間で支払われる場合、弁護士は有力情報が出てくることを期待して開示手続きを長引かせようとするかもしれない。もちろん、長引かせるという金銭的インセンティブもある。クライアント側はえてして弁護士という職業を誤解しており、その誤解が早期の和解を妨げることがある。