なぜ、震災後に常識に反する円高が起こったか

安倍晋三首相は、消費税の10%への引き上げを2019年10月に先送りすることを表明した。

14年4月の8%への引き上げは、17年4月の10%への引き上げ予想と相まって消費に大きなマイナスの影響を与えた。雇用、企業収益、そして税収も好調な日本経済の唯一といってよい弱点が消費であり、それがGDPの足を引っ張っている。

中国経済の状況など、世界経済が大きな波乱にもまれている中で、デフレからようやく脱しつつある日本経済に再び冷水を浴びせぬためにも、先送りは正しい判断であろう。

さて、ここで先の地震と為替相場の関係を考えてみよう。

16年4月、熊本県、大分県で震度7を記録する大地震が連続して発生、大きな被害が出た。

伝統的な経済学では、「大規模な災害が発生すると、為替市場においてその国の通貨の価値は低下する」と考えるのが常識だ。

為替相場は2つの通貨の間の相対価格だ。災害の起きた国では物不足からインフレとなり、通貨の購買力が減少するので、日本で震災が起こると円の通貨価値が減少する。つまり円レートがドルに比して下がる、これが通貨の購買力を基準にした古典的な為替レート決定の理論である。

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図1 震災前後の対ドル「円レート」の推移(月中平均)

ところが、過去20年に日本で起きた震災のケースを見る限り、実際に起こったのは円の高騰だった。

日本の円が対米ドルで1ドル=75円台と最も高くなったのは11年10月。東日本大震災から7カ月後だ。1995年1月の阪神淡路大震災でも、3カ月後の4月に1ドル=79円台に達する急速な円高が発生している。

なぜ、“常識”とは逆の現象が起きたのだろうか。