戦国時代の武将・真田信繁(幸村)と一族の活躍を描いたNHKの大河ドラマ「真田丸」が人気です。その理由の一つには、今の時代に合ったドラマの描き方があると考えています。その鍵となるのが、今、注目のマーケティング理論である「エフェクチュエーション(Effectuation)」です。

「真田の抜け穴」で知られる三光神社(大阪市)の真田幸村像。(写真=AFLO)

マーケティング理論といえば、フィリップ・コトラーの「STPマーケティング」が有名です。事前の情報収集や分析によって市場環境を予測し、必要な活動を体系的に計画して実行するSTPマーケティングは、「昨日と同じ明日が来る」という環境下では有効です。

ところが、経済や産業が成熟してくると、前提となる環境から変化を起こさないことには、成長の余地は見出しにくくなります。また、世の中の動きも、イギリスのEU離脱や日本のマイナス金利導入など、これまでの常識が通用せず、従来の延長線上で未来を予測することが困難になっています。このような先が読めない、不確実な世界の乗り切り方として、エフェクチュエーションは有効な手法です。

エフェクチュエーションは、米国の起業家研究の第一人者であるサラス・サラスバシーが提唱した理論です。サラスバシーは、優れた起業家たちが、起業に関わる意思決定にどのように取り組むかを分析しました。その結果、次のような手順を踏む場合が多いことがわかりました。

(1)手近なところで、取り組める活動を見出す。
(2)この活動を実践するビジネスを興す。
(3)実践を進める中で、事業を組み直しつつ、最適な市場の領域を把握する。

つまり、STPマーケティングのように「市場を分析・予測してから実行に移る」のではなく、「実行していく中で、適合する市場を見つける」のです。サラスバシーの研究で、マーケティング・リサーチあるいは予測的分析を用いるとしたのは27人のうち、わずか4人だけでした。優れた起業家の多くは、予測に基づいて活動を制御するマーケティングより、可能な活動を実践する中で機をうかがっていくマーケティングを選択したのです。

こうした優れた起業家たちの行動原理を、サラスバシーは「エフェクチュエーション」と呼びました。それに対して、STPマーケティングなどのように、確かな見通しに基づく意思決定を「コーゼーション(Causation)」と呼びます。

エフェクチュエーションは、事前の予測に基づく「戦略計画」よりも、実践の渦中での省察(未来志向の振り返り)から生まれる「戦略直感」に重きを置く行動を指します。こうした行動が有効となるのは、経済学者フランク・ナイトの「第三の不確実性」、すなわち、試行を重ねてデータを蓄積し、予測の精度を高めていこうとする科学的な取り組みが無効となる市場環境(プレーヤーによるルールの書き換えが避けがたく起こる環境)においてです。