年金運用損はさらに膨らんでいる予測も

ところが、株価の上昇によって景気の上向きとアベノミクスの成功を国民に印象づけようとしたのか、安倍内閣は14年10月31日、アベノミクスに基づいて日銀がマネタリーベースを年80兆円に拡大する追加金融緩和を発表したと同時に、GPIFの運用見直しを断行した。安定した投資先である債券中心の運用をやめて、外国株を含む株式投資を24%から倍以上の50%にまで可能にしたのだ。つまり、国民から預かった140兆円という巨額年金資産の半分を、債券とは対照的に値動きの激しい株式に突っ込み始めたのである。

この見直しの5カ月後に始まった15年度の年金の会計は今年3月末に締めている。当然、50%投資で生じた成績はすでに弾き出されているはずだ。貸借対照表や損益計算書など財務諸表については、各事業年度の終了後3カ月以内に所管大臣に提出することになっている(独立行政法人通則法38条)。過去3年度の経過記録を見ると、順に6月24日、同20日、同21日には運用委員会に財務諸表が提出されており、各々が同年の6月24日、同26日、同27日に厚労大臣に提出されている。従って、目安としては遅くとも6月末までの提出が常態と理解してよいスケジュールだ。

「例年だと7月初旬には公表されてきたのに、今回は参院選後の7月29日に公表するというんですね。誰が考えても、昨年度の運用成績は選挙で安倍政権のブレーキになる結果だったのだろう、と推測するしかなかったわけです」(全国紙経済部記者)

7月29日に公表されるのは財務諸表とは別の「業務概況書」(前年度では約80頁)だが、前述のように、すでに漏れ伝わってきた運用損が、米ブルームバーグの報道を端緒に国内主要メディアからも「5兆円台前半」と報じられた。

しかし、7月29日に公表される15年度の業務概況書では、既報の「5兆円台前半」を大きく上回る運用損が出る懸念もある。さらに、英国EU離脱に始まる今年のヨーロッパの大波乱は、来夏に発表される16年度の運用損を数十兆円規模にまで膨らませるのではないかとの危うい予測も飛び交っているのである。