異なる文化が共存する街が強い理由

南米で初となるリオデジャネイロ・オリンピックの開催が近づいてきた。もっとも、当のブラジルは経済の悪化と政治の混乱で、盛り上がりはいまひとつのようだが。

だからというわけではないが、本書を手に取った。副題に「大泉ブラジルタウン物語」とある。群馬県大泉町は、全国で最も外国人の比率が高い市町村の一つ。人口約4万人のうち外国人比率が約15%を占める。その約7割がブラジル人で、町民の10人に1人が日系を中心としたブラジル人だ。本書によれば、「リトル・ブラジル」は全国に20カ所ほどあり、静岡県浜松市や愛知県豊田市などが有名だが、ブラジル人の比率は大泉町が日本一という。

『移民の詩』水野龍哉 著 CCCメディアハウス

この町に日系ブラジル人が増えたのは、1980年代後半のバブル時代だ。大泉町はもともと製造業が盛んで、戦前は零戦を製造していた中島飛行機の工場があった。現在も富士重工業やパナソニックなどの工場が操業している。バブル当時、製造現場では労働力が不足し、外国人、なかでも日系人は在留資格が優遇されたことで、たくさんの出稼ぎ労働者がやって来た。08年のリーマン・ショックのあおりで多数の日系ブラジル人が失業、帰国を余儀なくされたが、それでも多くの人がたくましくこの地に根をはり暮らしている。

本書は、そんな日系ブラジル人の姿、そして地域住民との交流を描いたノンフィクションだ。著者は人や文化、旅をテーマに世界30カ国超で取材活動してきたジャーナリスト。その経験から日本社会の閉鎖性、非寛容性を問題視する。たとえば、自身が長く滞在した英国・ロンドンを例に、異なる国籍や人種の人々が暮らし、文化が共存する街は「強い」と指摘する。文化的創造性が生まれる一方で、オリジナリティーやアイデンティティーも失われず、人々には柔らかな寛容性と強靱な個性とが育まれる、という。

対して、日本はどうか。難民の受け入れは先進国のなかで圧倒的に少ないし、在日韓国・朝鮮人へのヘイトスピーチが国際的な問題となっている。著者は「どこの国からやって来た人々でも幸せに暮らしていける寛大な社会であってほしい」と述べる。