特に30~40代の「貯蓄格差」拡大

これは全世帯のデータですが、年齢層別にみると様相は違っています。どの層で貯蓄格差は大きい(広がっている)のか。世帯主の年齢層別に貯蓄ジニ係数を出し、グラフにすると図2のようになります。

貯蓄の格差は、若年世帯で大きいようです。スッカラカンの未婚単身世帯もあれば、結婚して子育て費用をせっせと貯めている世帯もあるためでしょう。

今世紀以降の変化をみると、60代を除いて、どの層でも貯蓄格差が拡大しています。

係数の上昇幅が大きいのは30~40代の世帯、子育て年代です。今の子どもの親世代で、「溜め」の格差が大きくなっているということでしょう。祖父母から孫への教育贈与が非課税になりましたが、このことも効いているかもしれません。

収入(income)の格差はよく取り沙汰されますが、貯蓄(pool)の格差にも目を向けないといけない、と感じます。

2013年の全世帯の収入ジニ係数は0.396で、先ほど出した貯蓄ジニ係数(0.614)よりも低くなっています。世帯主が30代の世帯では、収入ジニが0.277、貯蓄ジニが0.618であり、貯蓄格差のほうがはるかに大きくなっています。

子ども世代の教育格差の発生条件として、家庭の収入格差ばかりに注目されますが、「溜め」の格差にも注意する必要がありそうです。

貧困世帯の量を測る指標も、再考の余地があるかもしれません。年収が中央値の半分に満たない世帯が貧困世帯と判定されていますが、貯蓄額も掛け合わせてはどうでしょう。高齢層では、収入がなくともガッツリ貯め込んでいる世帯も多いわけですし。

2013年の『国民生活基礎調査』によると、「年収200万未満&貯蓄ゼロ」の世帯は全体の6.8%です。まさに生活に困窮している世帯ですが、この%値は、細かい属性別に出すことはできません。収入が少なければ「溜め」もない困窮世帯が、社会のどの部分に多く分布しているか。公表統計を整備し、分析できるようにしていただきたいものです。

今回のテーマは貯蓄格差でしたが、格差の規模を測る代表指標のジニ係数について、計算の方法を子細に説明したつもりです。統計学を学んでいる学生さんの参考になれば幸いに思います。

(図版=舞田敏彦)
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