「年功賃金見直し」で給料が下がる

2015年度決算は円安の恩恵を受けて増収見込みの企業が多い中、15年の春闘はベースアップの回答が相次いだ。賃上げは大きく定期昇給(定昇)とベア(ベースアップ)とに分かれますが、定昇は毎年自動的に昇給する分。ベアは賃金原資を引き上げる分です。

トヨタ自動車の4000円をはじめ過去最高のベア回答が相次いでいます。ベアだけではなくボーナスも満額回答が続出。14年に続く安倍政権の賃上げ要請に経済界が応えた形になっています。14年は経済関係閣僚をはじめ経済産業省の局長クラスが個別企業を訪問し、賃上げ要請を行いましたが、15年はそれを上回る強い要請を実施したそうです。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

住宅関連会社の人事担当者は「当初はボーナス増で応えようと考えていましたが、政府と業界団体からの圧力に近い要請で経営トップの判断でベア実施に踏み切りました。ただ、全員一律の賃上げではなく、給与が低い20~30代を中心に分配していく方針です」と言います。しかし、ベアは固定給の増加につながるだけに懸念する声もあります。食品会社の人事部長はこう言います。

「ボーナスは業績連動なので業績が悪くなれば自然に下がりますが、給料は簡単に下げられません。うちも業界他社に負けないようなベアにするようにとのトップの指示がありましたが、分不相応の賃上げを続けていけば体力的に持たなくなってしまいます。今のうちに賃金制度自体を見直す必要があると考えているところです」

ベアによる固定人件費増加を抑える制度改革、つまり成果主義賃金の強化が必要ということです。気になる調査もあります。産労総合研究所が実施した2015年春闘の経営側スタンス調査では57.6%が賃上げを実施すると答えています。一方、今後の課題として挙げているのは「年功賃金の見直し」が19.7%、「賃金カーブの見直し」30.3%、「諸手当の見直し」28.8%となっています。

賃金カーブ見直しとは年齢とともに賃金が右肩上がりに上がること。それを見直すとは年功賃金の廃止と同じ意味です。ちなみに14年の政労使会議で安倍首相が異例の「年功賃金見直し」要請をしましたが、個別企業の賃金政策に影響をもたらすと答えた企業は34.1%に上ります。賃上げの次は成果主義賃金の強化による賃下げかもしれません。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。