“異例の抜擢”は世界基準の象徴

──社長就任から半年が経過した。

国内のすべての事業所を半年間で回り、社員とダイレクトコミュニケーションをとってきた。改めて、現場には個性豊かな人が多く、パワーのある人材が多いと感じた。現場の力を生かせば、まだまだホンダは伸びると感じた。

本田技研工業 代表取締役社長執行役員 八郷隆弘氏

また、お客様との接点である全国の販売店を訪ねて、営業やサービスのみなさんとも意見交換をした。多かったのは「一緒に頑張りましょう」との声。逆に元気づけられた。私は本社に近い開発や生産、購買などを経験してきたが、販売現場からの期待の大きさを強く感じている。

──ホンダのトップは本田技術研究所の社長経験者が就いてきた。

確かに、私は研究所社長を経験していない初のトップだ。しかし、いままでがたまたまだったと考えている。研究所の社長を経験しなければホンダ社長にはなれない、といった“不文律”があるわけではない。

──社長就任時は“異例の抜擢”と報道されたが。

経営のグローバル化が急速に進展しているだけに、多くの領域を経験した人間に社長をやらせようとする判断だったと思っている。これまで私は、SUV「CR-V」の開発責任者、ハイブリッド車のリチウムイオン電池の購買の責任者、東日本震災時には鈴鹿製作所長で軽自動車の「Nシリーズ」を担当していた。また、海外も北米や欧州そして中国を経験してきた。

──ホンダは本田宗一郎さんが率いた研究所と藤沢武夫さんが指揮した販売部門が、互いの領分を侵さない体制で成功したといわれてきた。今後、体制はどのように変わっていくのか。

会社の規模が小さいときには、2人の創業者の “阿吽(あうん)の呼吸”が有効に機能していた。本田さんは技術、藤沢さんは販売と、それぞれの現場で2人から怒られたり褒められたりしながら人は育っていった。だが、会社が大きくなると、役割を分担する昔のやり方は通用しなくなる。今回、ディーラー(販売店)を副社長の岩村(哲夫)と一緒に回った。岩村が研究所に行かないことも、私が販売現場に背を向ける、ということもありえない。役員みなが情報を共有していく。ただし、創業から変わらないのは、現場の活力を大切にするという考え方だ。これからも変えるつもりはない。