仕事も子育ても一人前以上の「スーパーウーマン」を30%にするのは不可能

――その数値目標についてなのですが、そもそも「2020年までに指導的立場にいる女性を30%に」という数字は実現可能なものなのでしょうか? 最近でこそ「仕事も続けて、子どもも産んで女性は頑張って両立するのが良い」という風潮になってきましたが、少し前までは、女性が一線で働き続けようと思ったら、結婚や子どもをあきらめる人のほうが多かった。子育てをしながら仕事で素晴らしい結果を出し、出世するような女性はほんの一握りの女性、いわばスーパーウーマンだったと思うのです。もちろん、育休や産休といった制度が整備され、以前に比べて働き続けやすくなったという環境変化はあります。それでも本質的に、仕事と子育てを両立するというのはやはりものすごく大変なことです。
著書の『上野千鶴子のサバイバル語録』の中に、「女はすでにがんばっている」という言葉がありますよね。「女はすでにがんばってきた。(中略)今、女たちがのぞんでいるのは、ただの女が、がんばらずに仕事も家庭も子どもも手に入れられる、当たり前の女と男の解放なのである」と。30%という数字を本当に実現したいと思うのであれば、さらに言うなら少子化をなんとかしたいと本気で思っているならば、スーパーウーマンではない普通の女性が、がんばらなくても仕事も家庭も子どもも手に入れられるようにならないと、無理だと思うのですが……。
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「女はすでにがんばっている」(p.118)

その発言は、1985年の「おんな並みでどこが悪い」というエッセイから採ったものです。30年間、変化がないんですねえ。1980年代に、アメリカで「クインビー・シンドローム(女王蜂症候群)」という言葉が流行したことがあります。クインビーというのは、育児も仕事も一人前「以上」にこなすスーパーウーマンのこと。仕事ができる上に、体が丈夫で心も壊れない。しかも「不器用な夫がやるより、私がやった方が早いわ」なんて、家事も全部ひとりでこなしてしまう女です。でも、「シンドローム」っていうくらいだから、これは病気なんですよ。普通じゃない。

女にスーパーな(仕事の)能力があって、体力があってタフ、しかも子どもが育てやすい(丈夫で病気がちでない、など)。この3つの条件がそろわないと、仕事をしながら家事・子育てまで一手に引き受けるなんて無理です。そんな女は、人口の数パーセントくらいはいるかもしれないけど、30%もいるわけがない。家事育児を全部女が引き受けた上で30%だなんて、そんなの目標として実現可能なわけがないですよ。

――でも、女性管理職30%という目標は、日本では高すぎると思われていますが、海外では達成されている国も多いですよね。どうしたら実現できるのでしょうか。

(社会の)インフラを変える、これが必須です。女に「がんばれ」と言う代わりに、働き方の環境を変えればいいんです。

 

「2020年に30%」を実現するための処方箋

――具体的には、何をしたらいいのでしょうか? 30%という数字を達成するために、企業にできることはありますか。

答えはもう出ていますよ。(1)長時間労働の禁止、(2)年功序列の廃止、(3)同一労働同一賃金の確立。私の処方箋はこの3つです。

日本型経営が諸悪の根源であり、特に長時間労働が最大の問題点です。(1)長時間労働をやめさせるには、残業手当の割増率を変えればいい。現状、(改正労働基準法によって)時間外労働の割増賃金は、月に60時間を超えると基礎賃金の1.5倍にすることになっています。これを残業1時間目から1.5倍に増やすこと。あっというまに残業は減ります。簡単です。経営者は嫌がるでしょうけど。男女ともに残業ゼロ、9時~5時で定時に退社できるようにすれば、育児と仕事の両立は今の日本でも可能になります。規制緩和ではなく、やるべきは雇用規制です。

それと、(2)年功序列を廃止して(3)同一労働同一賃金を確立することです。今の日本の給与体系は家族給といって、シングルインカム(世帯主一人の給料)で家族全員を養えるように給料を払う考え方ですが、これをやめる。家族給を職務給に変えて、年齢性別関係なく、やっている仕事に見合った給料を払うようにしたらいい。正規雇用者の給料を下げて、夫に600万円払っているのなら、夫に300万円、妻に300万円払うようにすれば、納税者も増えます。