――それは、なぜですか?

定年まで勤めた会社をやめて、女が抜け殻になりますか? ならないでしょう。なぜなら、男と同じくらい会社にコミットする女を見たことがないから。男と同じように会社にコミットしても、男と同じ報酬を受けられないということを、女は早々に悟る。だから会社と無理心中しないで、正気を保っていられるし、別に会社をやめたって抜け殻になんかなりません。人生のバランスシートの帳尻は、長い目で見ないとわかりません。

女を女にするのは男、男を男にするのも男

――確かに、私自身の経験を振り返ってもうなずける部分があります。仕事は熱心にやってきたし、会社に対する忠誠心もあったつもりでしたけど、「この会社にかじりついてでも一生勤め上げるんだ、出世するんだ」という男性のそれとは違うな、というのを転職したときに感じました。

この本にも書いたけど、「男はパワーゲームが大好き」だから。男が体を張って働くのは、妻子を養うためでも、会社以外に居場所がないからでもない。パワーゲームで争うのがひたすら楽しいからだと、私はにらんでいるのよ。男たちを見ていると、ホモソーシャルな集団の中で、自分の評価している同性のライバルから「おぬし、できるな」と承認してもらうことこそが最大の喜び。それに比べたら、女に選ばれることなんてたいしたことではない。そのホモソーシャルな集団に女は参入できないし、させてもらえない。参入したくもないけどね。

「女を女にするのは男だ」ということになっているけれど、「男を男にするのは、女ではなく同性の男だ」ということ。男が男になるために、女は要らないんです、きっとね。

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「配偶者亡きあと、うつになる男性、ならない女性」(p.111)、「男がパワーゲームに夢中になる理由」(p.26)
『上野千鶴子のサバイバル語録』上野千鶴子(文藝春秋)
毀誉褒貶のなか、長きにわたり戦い続けてきたフェミニストであり、人生お悩み相談の名手でもある著者による、初の「語録」。過去30余年の著作群から抜粋した、名言の数々を収録しています。
「人生の勝負は、短期間では決まらない」
「万人に感じよく思われなくてもいい」
「人は、自分の器でしか理解しない」
「相手のとどめを刺さず、もて遊びなさい」……etc.
家族との関係に悩んだら? 結婚、子育て、どう乗り越える? 会社と心中しないためには? ハラスメントに負けないためには? 老後、ひとりをどう過ごすか? 人生の優先順位をどうつけるか? など。過酷な時代と人生を生き抜くための「140の金言」をまとめました。

 

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