運や偶然ではなく、長期間にわたって調子のいい会社がある。それはその会社が、社風や社内用語、暗黙知などの形で、その会社独特の仕事の仕組みという「共有資産」を持っているからではないだろうか。

2014年の販売台数が1023万台と3年連続世界一のトヨタ自動車。その現場を支えているのが“片づけ”にほかならない。整理・整頓の徹底は、オフィスや工場で長年培われてきた黄金ルールなのだ。ちなみに整理は、要るものと要らないものを分け、要らないものは捨てること。そして整頓は、必要なものを必要なときに、必要なだけ取り出せるようにすることである。

その片づけをはじめとするトヨタ自動車の“改善ノウハウ”を広く伝授するために設立されたのがオージェイティー・ソリューションズ。エグゼクティブ・トレーナーの柴田毅さんは40年間、トヨタのエンジンや車両の開発に携わりながら、片づけの所作を身に染み込ませてきた“伝道師”である。

オージェイティー・ソリューションズ エグゼクティブ・トレーナー 柴田 毅氏

「『モノを持つこと=コスト』というのが基本的な考え方です。生産現場で抱えた部品や仕掛品などの在庫の直接的なコストとして、スペースの賃料や倉庫代がかかることは、ほとんどの人が意識しています。しかし、オフィスで整理・整頓がなされておらず、不要な書類や備品を抱え込んでいることはスルーされていることが多いのです」

最近、柴田さんが驚いたのが、ある自治体に指導に入ったときのこと。来客カウンターや職員の机の引き出しを開け、ボールペン類を集めると山のようになった。黒、赤など1人で1本ずつ持っていれば十分なはず。つまり大半は“不要なモノ”なのだ。「机の上には書類が山のように積んであります。当然、そこから必要なものを探すのも手間取ります」と柴田さんは言う。

仮にその公務員の年収が800万円だったら、「800万円÷12カ月÷22日÷8時間」で時給は約3787円。そして、書類探しに15分ほどかかってしまうと、約946円の税金がドブに捨てられてしまう計算になる。