ずさんな年金制度の実態を暴き、新聞の横並びと驕りを突くなど硬派の作品を手がけてきた著者が、「こんなの初めて」と驚くほど版を重ねている本書。故・松下幸之助と松下電器産業(現パナソニック)を扱った『血族の王』(2011年)の取材経験と人脈を基にした週刊誌連載がベースの作品で、巨大電機メーカーの転落の内実を追っている。

岩瀬達哉(いわせ・たつや)
ジャーナリスト。1955年、和歌山県生まれ。2000年、『われ万死に値す――ドキュメント竹下登』で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞受賞。04年、『年金大崩壊』『年金の悲劇』で講談社ノンフィクション賞。ほかに『新聞が面白くない理由』など。

「結局は、トップ人事で何もかもが決まっていく。単に悲哀だけで済む現場の部課長クラスのそれとは違います」

幸之助の引退後、会長に就任した娘婿・松下正治が、特に4代目社長・谷井昭雄と4人の副社長が推進する経営改革に「創業家がないがしろにされている」と激しく反発。改革を潰し、谷井らを追い出し、子飼いの森下洋一を社長に立てて人事を私物化してゆく。1989年に没した幸之助は生前、正治の会長就任を「最大の不覚」と嘆いたというが、名だたる歴代経営者のあまりに平々凡々な正体が、本書で容赦なく暴かれる。

「谷井の人のよさ、決断力のなさがすべて。取締役会で正治の引退動議を出せば済んだのに、穏便に話し合いで済ませようとしたのが失敗でした」

谷井は「墓場まで持っていく」として取材に応じなかったが、実名・匿名を含めると、当事者のほぼ全員が取材に応じたという。

「やはり関西系の会社ですね(笑)。取材相手とは飲みながらレコーダーを回し、資料もたくさん貰った。皆、しゃべりたかったんです。『なぜ、こうなってしまったのか』という無念の思いと、この20年、30年を総括したいという気持ちを感じました」

本書を反転攻勢への糧とすることができるだろうか。

(文中敬称略)

(的野弘路=撮影)
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