ノーベル賞受賞の背景にあった「レジリエンス」

「1回失敗して、それでもってもうダメだと思ったらダメですね。これが必ず役に立つんだ、と思いながら研究をつづけることが大事だと思います」

「成功した人は言わないけれど、人の2倍も3倍も失敗している。失敗を恐れないように」

レジリエンスの教科書ともいうべき大村智氏の半生。(共同通信社/amanaimages=写真)

今年のノーベル医学・生理学賞に決まった北里大学特別栄誉教授の大村智氏(80歳)は、記者会見でそう語った。静岡県の川奈ゴルフ場近くで採取した土から、抗生物質「イベルメクチン」をつくりだす微生物を発見したのは40年前。それが受賞理由となった「寄生虫によって引き起こされる感染症の新しい治療法の開発」につながった。米大手製薬会社メルクと共同開発した「イベルメクチン」は、アフリカ、中南米の発展途上国を中心に猛威を振るっていた風土病「オンコセルカ症」に絶大な効果があると確認される。大村氏は数千億円に相当する特許権を放棄し、世界保健機関(WHO)による無償配布などを通じて、3億人以上もの人々が病気から救われたという。

その業績と情熱的で地道な研究姿勢とともに、定時制高校の教師から研究者に転じた異色の経歴、メルク社から研究費を引き出したビジネス的手腕、故郷の山梨県韮崎市に美術館を建設した美術愛好家としての顔など、偉人伝を読むような大村氏の半生は多くの人を魅了している。

「大村先生の経歴やエピソードから、レジリエンスが非常に強い方だという印象を受けました」

ポジティブサイコロジースクール代表の久世浩司氏はそう話す。

レジリエンスとは「逆境や困難、強いストレスに直面したときに、適応する精神力と心理的プロセス」のこと。2013年の「世界経済フォーラム(ダボス会議)」で、国際競争力が高い国ほどレジリエンスも高いと発表され、ビジネス界でも知られるようになった。

久世氏は注目されるレジリエンスの専門家として、多くの企業や公的機関でトレーニングの講師を務めてきた。

「誰でも失敗や逆境には直面します。すぐに心が折れて投げ出したり、逃げ出したりする人がいる一方で、ストレスに負けない人や困難に打ち勝つ人がいます。大村先生はまさに後者の代表」