2015年10月5日(月)

なぜ目標を人に話すと、仕事のモチベーションが下がるのか?

達人に学ぶ「伝わる技術」 第60回

PRESIDENT Online スペシャル

著者
上野 陽子 うえの・ようこ
コミュニケーション・アナリスト

上野 陽子カナダ・オーストラリア留学後、ボストン大学コミュニケーション学部修士課程でジャーナリズム専攻、東北大学博士前期課程で人間社会情報科学専攻修了。通信社の国際金融情報部、出版社、海外通販会社役員などを経て現在に至る。著書に『スティーブ・ジョブズに学ぶ 英語プレゼン』(日経BP社)、『名作映画いいとこだけの英会話』(ダイヤモンド社)、『コトバのギフト~輝く女性の100名言』(講談社)、『1週間で英語がどんどん話せるようになる26のルール』(アスコム)、『Primeシリーズ1・ビジネス英語新人研修―女子のフレーズー』(ジャパンタイムズ)ほか多数。

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上野陽子=文
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人に話すと、心は現実のように感じる

これから先を考えたとき、どんな立場で、何をしてみたいだろう。企業で役員になりたいかもしれないし、起業をしたいのかもしれない。あるいは、仕事はそこそこでいいから趣味の釣りの大会で優勝をしたい……。それぞれに、してみたいことが思い浮かぶことだろう。

どう実現していくかを考えて人に話すことは楽しく、思い浮かべるだけでも心がはずむ。また公言するだけで目標達成に近づくとする考え方もある。わかりやすい例では「ダイエット中だ」「禁煙中だ」ということで、目標を達成しやすくなるメカニズムがある。それは、人前でその行為をしにくくなるからだ。ところが、成功へのモチベーションになると、どうやら話が違ってくるようだ。心理学者のデレク・シバースは「目標は人に話してはいけない」という。

目標を達成するまでには、努力をして苦しい道のりがあるはずだ。ところが人に話した瞬間に、本来は実現するまで得られないはずの満足感が得られてしまう。そこでいい気持ちになり、目標を実現したように心が錯覚する。ここから努力が始まるはずなのに、満たされてモチベーションが低下してしまうのだ。

つまり、人に目標を語ることは、成功する前に満足感を得る“代償行為”をすることになる。代償行為とは、ある目標に到達できなくなったとき、代わりの満足を得るために元の目標に似た、別の目標に向かって行われる行動のことだ。

心理学者クルト・レヴィンは、「中断された行動と類似した行動に、代償行動として高い価値がある」としている。代償行動は実際の行動ではなく、空想したり言葉にしたりするだけでも可能ながら欲求は十分に満たされないため、心理的緊張はいつまでも残るという。

デレクによると、1933年心理学者ヴェラ マーラーは「他の人に認められると、心は現実のように感じる」ことを示し、2009年には心理学者ピーター・ゴルウィツァーがこんな興味深い実験をしている。

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