いまやツイッターのフォロワー数29万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル6■他人を攻撃する人の気持が理解できない
他人の何気ない一言にいちいち傷ついています。聞き流せばよいような些細なことでも気になります。そのあげく「私だったら冗談でもそんなこと言わない」とその人を心の中で責めてしまいます。人を傷つける誰の得にもならないことを平気で口にする人といるとイライラしっぱなしです。(女性・教員・25歳)
いまの職場は、いじめやモラハラばかり。その結果、休職や異動、退職など人の入れ替わりが激しいのですが、それを訴える先もありません。自分の立場を考えると「いけないこと」を目の当たりにしても、正面切って指摘することもそうそうできません。みな穏やかに仲よくすごせばよいのに、他人を攻撃する人があまりに多いのはなぜなのでしょう。不思議でなりません。(男性・サービス業・36歳)

誰かれ構わず精神的な攻撃を仕掛けてくる人っていますよね。僕自身、ネット上で一方的に言いがかりとしか思えないようなことを書かれたりすることもしばしばあります。あきらかな誤解の場合もあるのですが、一つひとつ反応していては心が持ちません。だから反論する前に、「なぜこの人は、こんな捉え方や感じ方をするのか?」と考えるようにしています。もしかしたらその人は過去の人生に何かあって、それに対する憤りをただ僕にぶつけているだけなのかもしれない……そんな気持ちになることもあります。

攻撃的な書き込みにはある共通点があります。それは「承認欲求」です。平たく言うと「もっとかまってよ」ということです。幼児期の母親のように自分を無条件に受け入れてくれる存在が見当たらないから、イライラしてネット上で攻撃的な言葉をまき散らしてしまうのかもしれません。面白いのは、攻撃的な人は、第一印象は敵にしか見えないのだけれど、ちょっとかまってあげると、案外いい人で、敵どころか味方のように応援してくれるようになったりすることもあります。

この2つの相談には共通点があります。それは「私がこんな酷い目にあっているのでなんとかしてほしい」という話ではなく他者を攻撃せずにはいられない人を見てザワザワしているという点です。人をむやみに攻撃するような人間は懲らしめないといけない、という勧善懲悪的な気持ちもあるのかもしれません。故意に人を傷つけるような人に対して憤りを感じるというのはわかりますが、その人たちに「そんなことやめろ」と働きかけてもほとんどの場合は無駄に終わるでしょう。

他人をわざわざ傷つけるようなことを言ったりやったりする人は、太古の昔から社会に一定数必ず存在しています。そのつもりはなくても人を傷つけていることだってあります。誰もが豊かで幸福な時代になれば、他人を傷つける人はいなくなるでしょうか。僕にはどうしてもそうとは思えません。むしろ「誰も絶対に傷つかない世界」があるとしたら逆に怖いですね。正直な感想が人を傷つけたり、大半の人には正しいと思えることが一部の人にとっては受け入れがたいことだったりもするのが世の中です。

と言ってしまうと何の解決にもならないのですが、僕は人を攻撃する人は人から注意されたり懲らしめられたりしなくても、すでに罰を受けていると思うのです。限られた貴重な時間を、呪詛の言葉を吐くという何も生まない行為に使わずにはいられないということ自体が懲罰のようなものです。珈琲でも飲んでのんびりすごせる時間に、わざわざ副作用のあるようなことをしているわけですから。人を故意に攻撃する人は、その言葉が相手を傷つけるということをわかったうえでやっている。つまり、自分もその言葉で傷ついたことがある人だと思います。そういう経験がないと、相手を傷つけようと思ったときにわざわざその言葉を選ばないでしょう。

子どものころ、やたらと人の身長のことを口にする同級生がいたのですが、彼自身、背が低かったんですよね。だから彼の攻撃は「それを言われたくない」ということの裏返しだったのだと思います。自分と違う意見を持っている人に対して「頭が悪い」としか言えない人は、自分もそう言われるのがなにより嫌なのでしょう。心無い言葉を耳にすると、殺伐とした気持ちになったりもしますが、それはその言葉を使う人自身の苦しさや悲しみのあらわれなんだというふうに考えてみると、感じ方が変わるかもしれません。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp