大企業で冷酷な「サイレントお祈り」横行

こうした企業の動きに驚いたのは学生である。3月広報解禁、8月選考を鵜呑みにしていた学生も少なくなかった。

今年1月のIT業界の採用直結型インターンシップの案内に出席した国立大学の理系学生は語っていた。

「昨年末に研究室の仲間が大手ゲーム会社の面接を受けていると聞いて驚きました。まだ先の話だろうと思っていたのに企業も学生も動いているのであわてました。夏の研究論文作成と卒論も控えているのに、どっちに専念すればいいのか正直悩んでいます」

学生は大企業志望が圧倒的に多いが、その前に少しでも内定を確保しようと中小企業や経団連非加盟企業のIT企業の応募・選考に進んだ。その数は3月までに就職希望の学生の約4割に及んだ。そうした学生に対してイジメとしか思えない現象も発生した。

▼企業の嫌がらせと放置プレー

「オワハラ」(内定出たら就活終わるよねハラスメント)である。

文部科学省の調査(7月1日時点)でも5.9%の学生が被害にあったと答えているが、実際はもっと多くの被害があったのではないか。

内定を出すから他社を受けないでほしいと言うのは昔からあったが、なぜ今回はハラスメントという事態に発展したのか。

就職コンサルタントはこう指摘する。

「経団連加盟の大手企業が建前とはいえ、8月から選考を開始すると言い、まだ大手の選考を受けていない段階でうちに決めろと言われるのは理不尽だと感じてしまう」

当然だろう。各社横並びで選考している最中なら、早くうちに決めてほしいというのも理解できるし、学生も「他を受けたいのでもう少し待ってほしい」と申し訳ない気持ちにもなる。

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「お祈りメール」の事例

しかし、まだ大手の選考が本格的に始まっていないのに、内定受諾を強要するのは誰しもおかしいと思うだろう。IT系の創業経営者の中には「説明会や選考の過程でうちのビジネスのことをよく理解したんでしょ。自分の人生なのにどうして決められないのか」と詰め寄る人もいたそうだ。

だが、オワハラならまだましかもしれない。学生にはもっとひどい仕打ちが待っていた。「サイレントお祈り」(通常、不採用になった場合、文書の最後は「貴殿のご活躍をお祈り申し上げます」という定型文で締めくくられることが多く、学生の間では「お祈りメール」と呼ばれるが、そのメールさえ一切来ない状況)だ。

もちろん、不合格の場合は通知しませんと言えば、「サイレント」に入らない。今年は大企業を中心にサイレントが横行し、多くの学生を不安に陥れた。