このところ、英語が「ブーム」のような状態になっている。小学校からの英語教育も本格化し、大学でも、英語を中心とした「グローバル人材」の育成プログラムが、盛んに喧伝されている。

今まで、日本人は、国際的に見て英語が「苦手」なのが当たり前とされてきた。「使える」英語教育の必要性が叫ばれても、なかなか本気にならない、というのが日本人の習い性のようになっていた。

それが、なぜ、ここに来て日本人は急に英語に熱心になったのか。私は、そこには時代状況の大きな変化があると感じている。そのことを考えるために、ある映画を例にとりたい。

下町の花売り娘イライザは、上流階級の話し方を身につけるにつれ、中身もレディへと変わっていく。(AP/AFLO=写真)

ミュージカルの名作『マイ・フェア・レディ』。貧しい花売り娘が、大学教授に英語教育を施されて、大変身を遂げる。映画化された際には、ヒギンズ教授をレックス・ハリソンが、花売り娘イライザをオードリー・ヘップバーンが演じた。

花売り娘はロンドンの下町で生まれ育ち、上流階級が使うような「正しく」「美しい」英語を話せない。教授は娘に言う。

「きちんとした英語が話せるようになれば、今よりもっと良い職業に就けるぞ!」

「より良い生活」のイメージに惹きつけられて教授を訪ねた娘は、猛特訓を受ける。ところが、なかなか正しい発音が身につかない。疲れ果てて、投げ出しそうになったとき、教授はこんなことを言う。

「君が、今何を学ぼうとしているのか、考えてごらん。かつて人間の心をよぎった、最も高貴な考えが、その音楽のように美しい音の中に封じ込められているんだ。君は、きっとそれを学べるさ!」

映画ではこのあと、一瞬、娘の表情が輝く。そしてついに、何度やっても身につかなかった「正しい」発音をものにするのである。とても感動的な場面だ。