法律改正により、希望者の65歳までの雇用が義務づけられたが、現実はそれほど甘くはない。定年延長できる人と、引導を渡される人はどこが違うのか。実績だけではない、意外なポイントが浮かび上がってきた。
「定年後も希望者全員を再雇用します、と謳っているが、それは表向き。再雇用後はきつい仕事をやらせて自主的に辞めるように仕向けるなど、会社にとって必要のない人間に対しては露骨な嫌がらせをして退職に追い込んでいるのが実態です」
昨年12月末に電子部品メーカーを62歳で退職したA氏はこう語る。本当は65歳まで働きたかったのだが、同僚に対する会社の仕打ちに嫌気がさして辞めたという。
「定年後も残ってほしい社員は、他社に就職されては困る技術系の人などごくわずかしかいない。ほとんどの人はいらないんです」とA氏は言う。
希望者全員の65歳までの雇用を義務づけた改正高年齢者雇用安定法が2013年4月に施行された。しかし、企業の本音は違う。上場企業に業績評価など再雇用の対象者を絞る基準は必要かを聞いたところ、必要と答えた企業が48.6%、「本当は必要だと思うが、法の主旨から選別基準を設定するのは望ましくない」が47.1%。合わせて95.7%の企業が選別したいと考えているのだ(図表1)。
サントリーホールディングスや大和ハウス工業のように定年を65歳まで延長した企業もあるが、大半の企業は定年後、1年ごとに契約更新する再雇用方式。しかも給与は現役時代の半分というのが相場だ。それでも人手不足の建設業や製造業のように定年後も残って働いてほしいという業界もあるが、ほとんどいらないという業種もある。
ソフトウエア開発会社の人事部長は、「正直言って60歳を過ぎても使える社員は少ない。発想が古いうえに、技術の進歩が早いので追いつくのも大変。できれば60歳前に3年分の退職加算金を払って辞めてもらったほうが助かる」と本音を漏らす。使えない社員は60歳を前に退職勧奨される可能性も高く、再雇用されても冒頭のA氏のように自主退職に追い込まれるかもしれない。法律で65歳雇用が義務化されても決して安心はできないのだ。