では定年後も会社に残ってほしいのはどういう人なのか。元JCB執行役員で再雇用事情に詳しい感性労働研究所代表の宮竹直子氏は「特殊なスキルの持ち主よりも知識や経験の伝承ができる人」と語る。

「特殊なスキルや知識を持っていることが望ましいですが、その能力をフルに発揮してほしいというより、これまでに培った経験・技術を後輩に伝えることを会社は期待しています。自分は黒衣に徹し、若手を前に出してやらせる。失敗させてもいいからアドバイスしながら後輩を育てていくタイプに残ってほしい、と会社は思うもの」

たとえば営業職であれば、会社にとってはその人がいなくなることで顧客や取引先がなくなることが一番怖い。

「取引先に若手を連れていき、人間関係の築き方を含めた自分のやり方を実践で教えながら受け継いでもらう。それができる人です」(宮竹氏)

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図表2:2011年、再雇用された人の平均は約6割だが……

逆に自分が培った専門性や経験に過剰な自信を持ち、後輩を仕切りたがる人もいる。過去の成功体験を披瀝し、自慢話をする人がいるが、これが最も後輩に嫌われるタイプだ。電機メーカーの人事部長は「自分の実力を知る」ことが大事だと指摘する。

「過去の実績や自分の専門性を過信している人が多い。会社の看板やブランド、優秀な上司や部下のサポートがあって実績につながっていることを忘れているのです。さも自分一人でやったかのような自慢話など誰も聞きたくありません。自分の実績が本物か偽物かを検証し、自分の実力を知ること、そのうえでどんな役割を演じればいいのかを突き詰めて考えることです」

自分の役割とは何かを知る人の意識は、職場での立ち居振る舞いに表れる。

実例を挙げて宮竹氏はこう説明する。

「部長職を務めて再雇用された人がいます。基本的には定時に帰るのですが、若手が残業していると常に『お先に失礼します』と言って席を立つ。会議にも参加しますが、決して自分から発言せず、意見を求められて初めて答えるのです。そういう人ですから周りも『こういうものをつくってみましたが、見てもらえますか』『ここが行き詰まっているのですが、どうしたらよいですか』と言って寄ってくる。その方は決して無理して自分を抑え込んでいるのではなく、後輩が自律的に育つことを支援するのが自分の役割だと言い聞かせているのです」

元部下の若手社員に「お先に失礼します」となかなか言えるものではない。その人は契約更新のたびに継続して働いてほしいと懇願されたという。

定年延長すれば、元執行役員、部長、課長職の人であっても一兵卒として働くことになる。「現役の延長線上で『おまえ、そんなやり方はダメだよ』と口うるさく言う人もいるし、俺が俺がというタイプだと若手が遠ざかってしまう」(宮竹氏)という弊害をまき散らす人も少なくない。