日本エンディングサポート協会の調べによると、葬式を出したことのある人のうち3割はその葬式に納得せず後悔しているという。原因は不明朗な業界慣行。そこに着目したのが流通大手のイオンだ。葬儀の新しい動きを紹介する。

価格も品質もイオン基準で大丈夫か

両親や配偶者など身近な人の葬儀は、突然やってくる。実際に自分が喪主となって、葬儀業者や内容に疑問を抱く人も多いようだ。

実は筆者にも経験がある。社会人1年目の秋に実家の父が病死し、喪主を務めたのだ。明け方に亡くなり病院から慌ただしく遺体を搬出、自宅に運び入れた直後に葬儀社の中年男性がやってきた。早速、持参のファイルを示しながら、早朝にはそぐわない大声で祭壇のランクを紹介し、「世間体を考えますと最低これぐらいは……」と矢継ぎ早にセールストークをする。供花の種類から仕出し料理の内容まで、料金を多めに積み上げようとする姿に違和感を抱いた。

実家が加入していた互助会を通じての業者だったが、責任者である上司が来た際に、一連の言動の不快さにクレームをつけたら、謝罪とともに一部の料金が値引きとなった。

イオンリテール イオンライフ事業部事業部長 広原章隆氏

この人も似た感情を抱き、その思いを事業化につなげた。葬儀業界に一石を投じた「イオンのお葬式」の発案者・広原章隆氏(イオンリテール イオンライフ事業部事業部長)だ。

「8年前に父が亡くなり、近畿地方の実家で自宅葬を営みました。業者から最初に提示された金額は180万円、ところが葬儀後の請求額は追加料金が発生して250万円に増えていました。やむをえず支払いましたが違和感が残った」。その経験を職場で話すと、同僚から「そうそう、仕方なく支払うけど葬儀料金はおかしいよね」という声が次々に上がった。

当時は商品部でギフトの開発をしていた広原氏。「葬儀自体はよくやってくれたのですが、契約書を求めたら『ない』という答え。クルマ一台買えるほどの支出なのに契約書もないのはどうなのか。私自身、仕事では必ず契約書を交わしていたので、不透明さも感じました」。

そこで広原氏は、葬儀料金の明朗化や遺族感情に寄り添ったビジネスモデルを会社に提案する。すると社内の人たちは、広原氏がびっくりするほどの盛り上がりをみせた。上層部も賛同し、事業化が承認されて社内公募で希望者を呼びかけると、予想を大きく上回る人が応募。「それまでの事業とは毛色が違うので人材が集まるか心配でしたが、すごく熱意を持つ人が多かった」(同)。