自民党本部(東京・永田町)で5月15日に開かれた農業関係会議の開始直前、西川公也前農林水産大臣が上座中央にゆっくりと着座した。地元・栃木の木材加工会社などからの数百万円の違法献金を追及され、2月に農水相を辞任していた。「いくら説明してもわからない人はわからない」と記者団に開き直ってから3カ月、「ほとぼりがさめた」と5月、党の農林水産戦略調査会長に就任した。

西川氏は、首相官邸から農水相ポストをちらつかされて、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)反対派の筆頭から、180度立場が逆の推進派に寝返ったとされるいわくつきの人物だ。政権に忠誠を誓うものが、能力とは別に重要なポストを占めていく。

官邸が党を抑えて主導権を握る「政高党低」が言われて久しい。背景には、官邸の巧みな人事戦略がある。政権に批判的な“うるさ型”に政府のポストを割り当て、政権側に取り込んでその批判を封じる手法だ。

西川氏のほかにも、TPP反対派の論客として知られた江藤拓衆院議員(宮崎二区)と小里泰弘衆院議員(鹿児島四区)はそれぞれ、農林水産副大臣と大臣政務官に任命された。大臣や副大臣の椅子を断る政治家はいない。“抜擢”の形を取りながら、政権批判の矛を収めさせた格好だ。

結果的に党には、当選回数を重ねても閣僚経験がないようなベテランと経験の浅い若手議員ばかりが残る。彼らでは農政の抱える課題を認識することすらできない。TPP関連の情報開示も野党が先鞭をつけているのが現状だ。その道に精通した族議員が幅を利かせていた時代とは隔世の感がある。

小泉純一郎元首相はかつて、党内の部会に対抗して次々と総理直属の諮問会議を立ち上げ、党を弱体化させていった。安倍晋三首相は小泉政権で官房副長官、官房長官を務め、小泉内閣の手法をつぶさに見てきている。

安倍首相は5月20日、通算在職日数1242日を迎えた。政治の安定は望ましい側面もあるが、政権がいったん暴走を始めたとき、党にはもはや歯止めをかける力はない。