ほとんどの人には見えないのに、新しいトレンドを読み、ビジネスに活かしていく人がいる。見えないものの中から本質を.む力――。これこそが「見抜く力」なのだ。それができる人は、やはり、もう一歩踏み込み方が違う。

そのベースになっているのが物事に対する関心や疑問だ。何か「What(現象)」に関心を抱いたら、「Why(本質)」を問う。そこでさらに「本当?」「それから」と一歩踏み込むことで、物事の本質が見えてくる。

たとえば、飲料に占めるお茶のシェアの高まりに関心を持ち、正確な数字がわかったとする。それが「What」に当たる。そして「健康ブームだから増えている?」「国内産の原料で安全だから?」などの「Why 」を仮説検証していく中で、「カロリーが低いから」といった本質がひらめいてくる。

別な言い方をすれば、お茶が売れているという現象=事実が「A」という引き出しにインプットされたとき、健康ブームという別の「X」の引き出しが開いて関連づけられる。そして、「カロリーが低いから」という本質が見出されるようになるのだ。

人間心理を考えた現金引き取りセール

セブン&アイ・ホールディングス会長兼CEO 鈴木敏文●1932年、長野県生まれ。中央大学卒業。63年イトーヨーカ堂入社。2003年イトーヨーカ堂およびセブン-イレブン・ジャパン会長兼CEOに就任。

どの家庭もタンスの中に服があふれているように、先進国の中でも日本は消費が最も飽和した国です。消費は飽和すればするほど、買い手の心理に大きく左右されます。一方、不景気になると、人々は景気に関する情報をマスコミから得ようとします。そのため、厳しい状況を並べる報道によって人心が萎え、消費者心理がいっそう冷えてしまうのです。

ただ、これを裏返せば、ピンチをチャンスに変えられます。消費が心理によって左右されやすくなっているため、逆に人心を温める仕かけを講じれば、必ず反応がある。キャッシュバックのキャンペーンや現金下取りセールが好評を博したのはまさに、消費者の気持ちが温まる企画だったからです。

1万円の商品を8000円で買うのと、一度払った1万円から2000円が現金で戻るのとでは心理的な効果がまったく違います。下取りもそうです。タンスの中の着なくなった服は価値はないのに捨てられない。それは本能的なものです。でも、下取りであれば価値が生まれる。ならば、お金に換えて買いものをしようと思う。それが人間の心理です。

(09年6月15日号 当時・会長兼CEO 文=勝見 明)