1人の女性の周囲で、不審死が相次ぐ。近年、そんな事件が相次いだ。逮捕された被告たちは、見るからに悪人だとか美人というわけではない。ごく普通に見える女性が、平然と人を殺し続けたのか。精神科医、犯罪心理学者、『後妻業』著者で直木賞作家の3人に話を聞いた。

男性の資産を狙う進化する手口

“平成の毒婦”と呼ばれる女が3人いる。結婚相談所や婚活サイトを舞台に複数の男性が所有する資産を狙った筧千佐子と木嶋佳苗。そして、いくつもの家族を巻き込んだ連続殺人事件の主犯とされる角田美代子である。

一昨年11月、京都府警に殺人容疑で逮捕された筧被告は、当時67歳である。彼女は20年間で何人もの老人と交際、結婚したが、そのうち7人が死亡しており、10億円を手にした。事件の発端は、当時夫だった筧勇夫さん(当時75歳)の遺体から青酸化合物が検出されたことで、現在は筧さん殺害を認めている。

木嶋被告は2009年に逮捕されている。インターネットで知り合った首都圏の複数の男性から1億円以上の金品をせしめた。彼女の周りでは、数年の間に6人が不可解な死に方をしている。裁判で殺人を全面否認したものの、死刑判決を受け、現在は最高裁で争っている。

角田美代子●25年以上にわたり、尼崎市を中心に兵庫県、高知県、香川県、岡山県、滋賀県、京都府の6府県で、数世帯の家族を長期間虐待、監禁して、10人以上を虐殺、財産を奪ったとされている。2011年にドラム缶遺体発覚で逮捕、12年に留置所で自殺。(写真=兵庫県警)

角田元被告の場合は、この2人とは異なる。尼崎を地盤に、25年以上にわたり暴行や監禁で被害者をいたぶり、現金を貢がせ、はては保険金目的で親族殺害を示唆したと見られる。だが12年、兵庫県警の留置所で自殺し、事件の真相解明は困難になった。

自分の物欲が動機で、いとも簡単に一線を越えてしまう。そんな女たちの心理はどのようなものなのか……。

男性の資産を狙った犯罪は古今東西を問わずあった。警視庁科学捜査研究所に勤務した経験もあり、犯罪者の心理にも詳しい法政大学の越智啓太教授は、それを3つのフェーズで説明する。

「第1フェーズは、昔のヨーロッパの小説などに出てくるような貴族の男性と結婚した美女が夫を殺して財産を得るタイプ。第2フェーズになると、保険金制度ができて、この犯罪が大衆化した。適当な男性を見つけて保険をかけて消す。しかし、いずれも発覚のリスクは高い。そこで第3フェーズとして登場したのが、資産を持つ独身男性や高齢者を選んで財産を奪う方法だ」

木嶋被告と筧被告は第3フェーズの典型例にほかならない。そこで連想するのが心理学でいう“サイコパス”である。一般的には反社会的人格障害者と訳されることが多く、良心がいちじるしく欠如しているとか、口が達者で平然とウソをつく、罪悪感が皆無といった特徴が挙げられる。

越智教授は「彼女たちの起こしたとされる事件を見ると、犯罪に対する良心の呵責がない。複数の犯罪を同時進行で行ったことになり、“仕事”として犯罪を繰り返しているということになる。もしそうならサイコパス的資質があるかもしれない」という。