創業者の感動を知らない後継社長

『「後継者」という生き方』牟田太陽著(プレジデント社)

知り合いの経営者から、「息子が頭を下げられなくて困っている」と相談されることがある。どこか生意気な雰囲気で、何かミスがあっても「申し訳ございません」とすぐに頭を下げられない2代目、3代目社長。そんな調子の後継社長では、取り引き先などから好印象を持たれることはないだろう。

どんな商売でもお客様がいない商売などないにもかかわらず、頭を下げるのを嫌う後継社長は、それが恥ずかしくてみっともなく、自分が“負けた”ことになると思っているのかもしれない。媚びへつらうべきだとは言わないが、「どうすれば、もっとお客様のお役に立てるのか?」と普段から考え、「お客様第一主義」を徹底していたら、自然と頭が下げられるはずである。

ただ、後継者が会社を継ぐときには、すでにお客様がいる状態だ。何もないところからスタートし、最初に仕事をもらったときの創業者の感謝、感動、感激を、後継社長は知らない。すべてゼロから始め、苦労して最初のお客様が来てくださったときの喜びを体験していない。だからなかなか頭を下げられないのだろう。

さらに言えば、後継者が社長になった途端、恐怖政治のような経営になってしまったため社員がどんどん辞めていくような事態になっても、「自分は何も悪くない。辞める奴が悪いんだ」と平気で言う後継社長がいる。創業者が初めて社員を雇ったときの感動と責任の重さを、やはり後継社長は知らないのだ。

こうした「創業の原点」ほど、後継者に、そしてそのまた次の世代に伝えていかなければならない。できあがった状態を引き継ぐ後継者は、創業者の苦労や思いを知るよしもない。意識して伝えていかなければ、あっという間に風化してしまう。「創業の原点」を知らないという後継者は、ぜひとも調べてみてほしい。そこに「何のために我々はこの会社をやっているのか」というすべてが詰まっているはずだ。