一番コストがかからないのは

弁護士 向井 蘭氏

真偽は不明だが、会社の産業医が介在するケースもあるという。上司から「最近疲れているんじゃないか。一度診てもらったら?」と勧められて産業医を受診すると、うつ病や新型うつと診断されて処方薬を出される。この手の薬は服用すると眠くなり、時には業務にも支障が出る。これが進行すれば病気休職、そして自主退職に結びつくというのだが……。

ここまで紹介したのは大企業の事例だが、中小企業もリストラの“闇”を抱えている。

「中小企業では大手のような追い出し部屋をつくる余裕がないので、更生の姿勢が見られない問題社員には、会社側が自主退職するよう働きかけるのが一般的です」

こう話すのは、企業側の代理として労働事件を数多く手掛ける向井蘭弁護士だ。企業が退職を勧める際に決め手となるのが、問題社員に対し指導や懲戒を行ってきた記録である。解雇規制が厳しいといわれる日本だが、そうした文書記録を積み上げていけば解雇することも可能である。

むろん訴訟に発展するケースも少なくないが、手間や費用を考えると訴訟は避けたいのが企業の本音。そこで会社側は、従業員が自主退職に応じてくれるかどうかを次のような条件から見分けるという。

たとえば、給料以外に家賃収入があれば退職に応じてもらいやすいし、反対に多額のローンがあるとか学齢期の子供がいればこじれやすい。つまり、本人の能力とは別に、リストラの対象になりやすい人がいるのである。

向井氏は最近、リストラの相談にやってくる企業に対し「懲戒の書面を連発する前に、できるだけ相手と面談すること」をアドバイスするという。相手側の労働組合や弁護士との交渉や裁判でも「双方が面談して話し合ったかどうか」が心証を左右することが多いからだ。

労働者側・会社側と立ち位置が違う鈴木氏と向井氏だが、「きちんと話し合うべき」という視点では一致する。鈴木氏は「人材会社に丸投げするのではなく、会社側が社員と面談して向き合う。結局これが一番コストも安くすむ」と話し、向井氏は「退職を納得してくれるまで本人と向き合うことが大事です」と指南する。

現在は勤務先の業績が好調だとしても、先の保障がない時代。実情を知ったうえで将来に対して備えるのも、転ばぬ先の杖といえそうだ。

(的野弘路=撮影)
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