デジタル先進国エストニア

先日、北欧バルト三国のエストニアを訪問した。エストニアは人口135万人の小国だが、財政は健全でITが非常に強い。日本の住基ネットベースのマイナンバー制が恥ずかしく思えるくらい電子政府化が進んでいて、ICチップを搭載した国民IDカードの普及率は8割超だ。今やIDカードがスマホのSIMチップの中に入るようになって、スマホさえ持っていれば、海外のどこにいても行政手続きが可能だし、投票もできる。

チーフ・インフォメーション・オフィサー(最高情報責任者)という肩書の役人と話をしたら面白いことを言っていた。135万人の人口を1000万人に増やしたいそうで、非居住者用のIDカードの所持者を2025年までに1000万人にする計画を進めているというのだ。

エストニアでは観光ビザで会社が設立できる。非居住者用のIDを持っていれば、エストニアで興して登録した会社を海外から経営できる。契約書のサインも税金の納付もオンラインで可能。しかも資本金ゼロで会社が興せるし、最初の5年は税金がかからない。従って世界中からエストニアに会社を興しにやってくるようにしたい、と言う。「これが21世紀の人口増加策だ」とオフィサーは胸を張った。

エストニアの人々は再びロシアが攻め込んでくる可能性を結構、本気で信じている。たとえ物理的に国を取られても、世界中に散らばったIDホルダーによってサイバースペースの「e国家エストニア」を経営して、国家再興の日まで頑張るつもりだそうだ。国家の外形を規定する“国境”という制約条件から解き放たれているという点は、エストニアも、前回述べたイスラム国も共通している。