国境を軽々と飛び越えるイスラム共同体

イスラム教スンニ派の過激派原理主義組織「イスラム国」の脅威が拡大している。

イスラム国が関与したと見られる爆弾テロで破壊された車両(イラク)。(ロイター/AFLO=写真)

アメリカやフランスから空爆され、国連から“壊滅”の議長声明を出されても、イラク、シリアの要衝で支配地域を広げ、イスラム教への改宗を拒んだり逆らった住民を虐殺したり、拘束した外国人ジャーナリストを処刑するなど、原理主義の残虐な性向を剥き出しにしている。

イスラム国はアルカイダなどのスンニ派系の過激派組織が合流と分派を繰り返しながら出来上がった組織で、それまでは「イラクとシリアのイスラム国(ISIS)」とか「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」と名乗っていた。それが今年6月にイラク・シリアの支配地域でイスラム国家樹立を勝手に宣言して、「イスラム国」と改称したのだ。

イスラム教スンニ派では開祖ムハンマドの後継者(代理人)を「カリフ」といい、イスラム国家では最高指導者の称号とされている。

イスラム国はカリフによる統治システムを復興した。同組織の指導者アブー・バクル・アル=バグダーディーをカリフに奉じて、全世界のイスラム教徒は彼に従うべきだと主張しているのだ。また中東の国境線は第一次世界大戦中に結ばれたサイクス・ピコ協定(イギリス、フランス、ロシアの間で結ばれたオスマン帝国の領土分割に関する秘密協定)によるものとしてこれを否定し、武力によるイスラム統一を掲げている。

この極めて異質な(自称)国家の出現は、この150年続いてきた「国民国家(ネーション・ステート)」の概念を揺さぶるという意味でも脅威だ。彼らは砂漠に埋もれていたカリフ制を掘り起こし、国境を飛び越えてイスラム共同体への回帰を訴える一方で、SNSや動画サイトを通じて全世界に“聖戦”への参加を呼び掛けている。