2012年の末、僕は自分のマンガ『限界集落(ギリギリ)温泉』の電子書籍版コミックを、アマゾンのキンドルというプラットフォームを使って「自主出版」した。

雑誌やコミック単行本の売り上げが右肩下がりに落ちていく中で、僕のような中堅どころのマンガ家は、食べていくのがどんどん難しくなりつつある。キンドルでの自主出版は、そんな状況で生き残るための試みの一つだった。

実はそれまでにも、つきあいのある出版社が、別のプラットフォームで僕のマンガを電子書籍として売り出していた。でも、売れたのは1巻当たりせいぜい数十冊。初刷2万部が標準の紙のコミックの世界と比べれば、とても商売とは呼べない。

ところが、キンドルで出した僕のマンガは、予想外の勢いで売れていった。キンドルが日本でスタートした直後だったこと、プロのマンガ家が出版社を通さず自主出版したことの話題性、ツイッターで僕のフォロワーが話題を広めてくれたことなど、いろいろな要因があったと思う。

13年末までの間に、4巻の合計販売部数は5万部以上、印税収入は1000万円を超えた。もう少しマンガ家を続けていられるかもと、ちょっとほっとしたというのが正直な感想だ。

アマチュアの人が同じように、電子本の自主出版で稼げるかどうか。僕に言えるのは、チャンスはあるということだけだ。電子出版すれば必ず儲かる、とは言い切れない。キンドルにはすでに玉石混淆の自主出版本があふれていて、その中で埋もれてしまう可能性は常にある。

でも、それはプロもアマチュアも同じこと。むしろ、これからどんどん、プロとアマが横一線でコンテンツの面白さを競いあう世界になっていくと考えている。