極端な一部の声が「世論」になる構造

ここ最近、朝日新聞の報道を巡る「報道」が目立ち、同紙を「叩く」ことが流行しているように見える。ネット上には同紙を憎悪する声がこだましている。本稿では、この現象が何を意味するかを考察したい。

筆者は多様な新聞、雑誌と関わりを持っているが、現在朝日新聞では論壇委員というものを務めている。左右上下、薄いものから厚いものまで多数の雑誌の論考を確認し、目立った論考を月1回の会議の場で紹介するというのが主要任務である。したがって各雑誌の論調などには自然と詳しくなるのだが、今回の件についてはこれまでの延長戦で、特に新奇な印象を持っていない。

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「朝日」関係記事の年別掲載率推移(※数字に関しては、本文末参照)

図は、国立国会図書館の雑誌記事索引を用いて、記事名を手掛かりに各雑誌に朝日新聞関係の記事が掲載された号の割合を年ごとに集計したものである。言い換えれば目次に朝日新聞等が登場した割合の変遷を示す。ちなみにこれらの雑誌の記事に朝日と書かれていれば、ほぼ間違いなく批判記事である。

休刊した『諸君!』以外は、1990年代以前のデータがなく考察に限界があるが、それでも2014年の各雑誌の「朝日率」は過去に比べて極端に高いわけではないことは明確である。週刊誌については05年から数年の間がピークであり、正論は少し前の03年から06年にピークがある。今後の状況次第で今年の値は変わるが、少なくとも目新しい状況ではないことは確かである。

正論の場合は97年に100%となっているが、ちょうどこの時期に「朝日新聞の戦後責任」という連載が掲載されているためである(※1)。これに限らず、歴史教科書や南京事件、従軍慰安婦といった第二次世界大戦をめぐる議論が21世紀を跨ぐ時期の主要テーマとなっている。03年には北朝鮮による日本人拉致を題材とした記事が並ぶが、04年以降は再び歴史問題に戻る。05年には、従軍慰安婦に関する番組が偏向していると安倍晋三幹事長代理(当時)等がNHKに圧力をかけたとする朝日新聞の報道に焦点が当たる。これを機に、朝日新聞の記事の「偏向」を非難する記事も多くなっている。

一方、週刊誌の場合は、記者の不祥事や社内外のゴタゴタなど、歴史問題とは異なる角度の記事が多い。05年のNHK圧力報道に際しても、従軍慰安婦などの内容よりも朝日新聞対NHKという構図に焦点があるように読める。週刊新潮では07年に朝日新聞関係記事が多数掲載されているが、新人記者研修の内容紹介など細かいものが多い印象である。

こうして見ていくと、歴史認識を中心とする政治的イデオロギーの対立を基本構図とし、主流メディアに対する雑誌メディアの対抗という側面が重なったのが、伝統的な「朝日叩き」と言える。従軍慰安婦報道であればメディアや個人の歴史認識により対応が分かれ、吉田調書報道での批判も原発への賛否でだいたい態度が決まっている。場所がネットに拡大しただけで、右と左が相手の失点、弱点を見つけては叩くという日常の風景の延長である。