死んだ母が枕元にいた

――東日本大震災の被災地では、亡くなったはずの家族や親友と“再会”したと語る人があとを絶たないという。そうした被災者の声に耳を傾け、実際の体験談をもとにつくり上げたのがNHKスペシャル「亡き人との“再会”」だ。「死」という普遍的な問題を真正面から問い、死者との対話によって再び動き出した人を追う画期的なドキュメンタリーは大きな反響を呼んだ。震災当日から現地で取材を重ねてきたNHK報道局の佐野広記ディレクターが番組の知られざる全貌を語る。
NHKディレクター 佐野広記
1980年生まれ。2006年NHK入局。NHKスペシャル「果てなき苦闘」で地方の時代映像祭グランプリ。同 「シリーズ巨大津波」は橋田賞20周年特別顕彰。

2011年3月11日、がれきの中で多くの人たちが、呆然と、ただたださまよっていました。異界を覗いてしまったような、ざらざらとして、息の詰まる、あの日の空気感。今も忘れることができません。その日から現在に至るまで、東北各地に通い、地元の方たちと交流を続けてきました。気がかりだったのは、時間が経つごとに「ようやく被災者は前を向き始めた」といった、わかりやすいレッテルを貼った報道が増えてきたこと。自分が知る被災者の方々は、そんな単純な感情の中にはいないし、状況は一人一人でかなり違う。むしろ世間のわかりやすい決めつけに、辛い思いをされている人も多い。どういう報道をすべきなのか、自分なりの答えを探してきました。

震災から半年が経過した9月の早朝のことです。番組の編集作業で徹夜明けだった僕に、石巻赤十字病院で知り合った女性から一本の電話がありました。その方は、義理の母と一緒に津波にのまれ、ご自身だけ助かった体験をされています。濁流にのまれる中で、掴んでいた手が離れてしまい、苦しみながら亡くなっていく姿をただ見るしかできなかったそうです。「もっとちゃんと手を握っていたら」「なんで私だけが助かったんだろう」。自分を責め続け、精神的に辛い毎日を送っていました。