育児費用を予算化する

【白河】夫婦や子育ては会社と同じとよく言われますが、ぜひそのあたりのコツをもっと詳しく教えてください。

【奥田】まず子育てというプロジェクトに対して戦略パートナーである夫とマインドを共有する。実はうちは夫が病気になり、結果的に会社を辞めてエンジニアとして私の会社に入るという予期せぬハプニングもありました。でも、これも不幸なことではなく新しいバランスと戦略を作るチャンスと捉えました。あと、娘が小学校に入るのを機にオフィスと自宅を一緒にし、夫と共に働き、共に子育てを行うということがよかったともいえます。まさに事業においてピンチをチャンスに変えるというような発想です。

子育てが落ち着いた今は、サテライト的なオフィスを数か所外に構えて、外の人と組みやすくしたり、フレキシブルな発想で組織の規模や場所を変えていっています。

【白河】パートナーだけでなく、よく「うちの娘はたくさんの人に育ててもらった」とおっしゃっていますよね?

【奥田】そうです。家族が増えたら、それに合わせて子育てチームの人員も増強します。夫も私も足りない部分は人にやってもらう。実家の親やサポートしてくれる人。特に子どもが小さいうちは、2倍ぐらい手厚くサポートをつけるようにしました。

【白河】でもお金がかかりますよね? チーム組みと予算化の実例ってどんな感じでしょうか?

【奥田】娘が小さい頃は親を鹿児島から呼ぶことも多かったのですが、飛行機代が1回5万円として10回で50万円です。しかし、子どもが小さくてサポートが手厚く必要な、例えば2年間に幾ら使えば、家族が快適に過ごせるか、ちゃんと予算化すると決してムダなお金ではないことがわかるんです。例えば育児にかけるいろいろなお金を1年で50万円と決める。予算化しないと「エステ、2万円高いよね」と思いますが、自分たちが子育てに使うお金の予算のうちの2万円でお母さんがリフレッシュして明日からも頑張れると思えば、使うこともできる。

この話をすると必ず「恵まれた家庭での話ですよね」と言われます。当然、頼れる先も予算の額も家庭によって違うと思いますが、限られたリソースの中でどう配分するかという発想を持つのが大事だと思うのです。

これはリード・ホフマン(アメリカの起業家、ベンチャー資本家。ソーシャルネットワークであるLinkedInの共同開設者である)から学んだことです。彼の本の中に、ビジネス上の交流を保つためのシリコンバレーとシアトルを往復するお金がもったいないと思っていたけれど、「愉快な仲間基金」という名称で年間幾らは移動にあてようと思って予算化すると、冒険ができて、かえってビジネスも大きくなるという例が書かれていました。子育ても「愉快な子育て基金」というような感じで予算化してみるんです。

【白河】知り合いでもフルタイムで産後復帰して、ベビーシッター代などにすごく出費している人もいますが、子育て予算と割り切ることですね。一生かかるお金ではないですからね。

【奥田】そうです。子どもはどんどん大きくなる、今は中学生の娘ですが、私の友達になるべく託そうとしていますよ。私の世代は、語弊はあるかもしれませんが「優秀な女性ほど子どもを産みにくかった」世代です。でも次世代につなげるのはDNAだけじゃない。彼女たちのネットワーク、知恵、ノウハウは、娘や次世代の女性がたくさん吸収していくと思います。

【白河】私も奥田さんに、「本や発信を通じてたくさん産んでいるよね」と言ってもらえてすごく嬉しかったことがあります。