政府は労働時間の制限を外し、残業手当をなくす規制緩和策として検討してきたホワイトカラー・エグゼンプション(EX)について、6月11日の関係4閣僚による協議で、6月中に打ち出す新しい成長戦略に明記すると決めた。焦点だった労働時間の規制を外す対象者の年収の下限は「少なくとも1000万円以上」の専門職に限定すると記すことでも合意した。

当初、労働界に配慮し、制度導入に難色を示しながら、その後に職種を絞り、年収の水準を数千万円とする妥協案を示した厚生労働省も、結局は大幅に譲歩した格好。政府・与党内で「はじめに導入ありき」で進められた出来レースの感は否めない。具体的な制度設計については、厚生労働相の諮問機関である労働政策審議会で検討が進められ、来年の通常国会に労働基準法の改正案を提出し、2016年春の施行を目指す見通しだ。

ホワイトカラーEXを巡っては、欧米に比べ低いとされる事務職の生産性の向上や働き方の多様化が進むとして、経済界が導入を強く要望してきた。07年の第一次安倍晋三政権下でも同様の制度の導入が検討されたものの、「残業代ゼロ法案」との批判が強く、断念している。第二次安倍政権は、時間でなく成果に応じた給与であることを強調した粘り腰によって、制度導入の実現につなげた。

しかし、制度がいったん創設されれば規制緩和の流れが強まり、対象者の年収下限のハードルがどんどん下がる可能性があることは否定できない。過去に派遣労働者の規制緩和が加速度的に進み、非正規社員の増大につながったことは指摘するまでもない。

実際、産業の競争力強化を高める施策を検討してきた政府の産業競争力会議の民間議員を務める経団連の榊原定征会長(東レ会長)は「全労働者の10%に適用できるようにしたい」と語っている。成長戦略に織り込まれる年収1000万円以上の給与所得者は12年で3.8%の水準にとどまるだけに、残業代ゼロの対象者がより年収の低い層にまで広がる懸念も現実味を増す。一方、導入に反対してきた労働界は、これまでの政府部内の議論で蚊帳の外だっただけに、労政審の場での巻き返しにも注目される。