1000円のコーヒーが生み出す大きな価値

わだ・ひろみ●和田裕美事務所代表。京都府生まれ。外資系教育会社でのフルコミッション営業時代、世界2位の成績を叩き出す。その後、成約率95%という営業力で最年少の支社長となる。現在は独立して、営業力、交渉力、コミュニケーション力アップのためのコンサルティング事業を展開する。主な著書に『世界No.2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』『和田裕美の人に好かれる話し方』など多数。
和田裕美事務所
http://wadahiromi.com/

前回に引き続き、外資系教育企業時代に世界142カ国の中で売り上げNo.2の営業実績を持っていた和田裕美さんに、効果的に相手に伝えるコツについてうかがった。今回は成功するコミュニケーションの場面づくりと、人を説得するための心構えなどについてお伝えさせていただこう。

和田さんはまず、営業時代に身につけた人と話をするときの重要な感覚であり、交渉で成功するための秘訣として、こんな風にお話をされていた。

「自分のランチを節約してでも、1杯1000円のコーヒーをお出しして話の場をつくります。お互いが心地よくお話できる場を創ることはとても大切です」

たとえば何十万という商談をするときにファーストフードで1杯100円のコーヒーを出したとする。ガヤガヤした中では思考力が落ちて、冷静な判断ができなくなるだろう。相手は大切にされていないように感じるかもしれないし、自分のモチベーションすら下がるかもしれない。もちろん和田さんはコーヒーの値段を言っているわけではなく、数十万円の商談に見合うように、お互いの気分をもっていくことが必要だというわけだ。

人には、自分の行動を周囲の環境に適応させる傾向がある。周りがうるさいと気が散って落ち着かなくなり、相手を受け入れにくくなってしまう。同じ内容の説得をしたときに、落ち着いているほうが成功しやすく、また、まったく音がないよりは多少は音のある場所のほうが説得できる確率が高いという心理実験もみられる。つまり、多少背伸びをしてでも雰囲気をつくることは重要なのだ。ラウンジなどで音がありながらも「落ち着く」と感じるくらいが人間関係を発展させやすく、周りで何かが動いていることで雑談の種も見つけやすい。そんな中で天気や政治の話以上の雑談をしたり、多少のパーソナルな話にふれたりすることで、互いに心を開きやすくもなるものだ。

こうして、あらゆる話の種を見つけて成長させていくことが、コミュニケーションの基本となる。和田さんも、相手の話を聞くことから始めて商品の話に移ることで、まずは相手の信頼を得ていくという。さらに、「たとえば」と具体的な事象を使って例をあげて、いろいろな話につなげていくところにも秀でた話術がみられた。

ほんの小さなつかみから話を発展させるコツは、どこにあるのだろうか。