2014年3月26日(水)

なぜ東京大学は「推薦入試」を始めるのか

PRESIDENT 2014年4月14日号

著者
寺脇 研 てらわき・けん
映画評論家、京都造形芸術大学教授

寺脇 研1952年、福岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、文部省に入省。初等中等教育局職業教育課長、広島県教育長、高等教育局医学教育課長、生涯学習局生涯学習振興課長、大臣官房審議官などを経て、2002年より文化庁文化部長。06年退官。『文部科学省 「三流官庁」の知られざる素顔』『「学ぶ力」を取り戻す教育権から学習権へ』『ロマンポルノの時代』など著書多数。

答える人=寺脇 研(映画評論家、京都造形芸術大学教授)
1
nextpage

「スーパー高校生」がSFCを選んだ理由

東京大学が2016年度入試から学校推薦制によるアドミッション・オフィス(AO)選抜制を一部導入すると予告発表し、話題を呼んでいます。一昨年導入を発表した「秋入学」を昨年になって取り下げるというお騒がせ前科のある東大とはいえ、今度こそは本気で考えているようです。ただ、これ、特に目新しい話ではありません。

1999年、中央教育審議会は画期的な答申を出しています(※1)。答申は、戦後半世紀の教育の発展とその課題を指摘するところから始まり、21世紀を見据えて「初等中等教育の役割」「高等教育の役割」を論じた上で、両者の接続と入学者選抜の在り方を提言しました。ここで既に、入学者選抜の具体的な改善方法としてAO入試導入の必要性が示されています。国立大学でも、00年度から東北大学、筑波大学、九州大学が導入するなど86大学中46の大学で採用されているのです。私立だと、慶應義塾大学、早稲田大学をはじめ469もの大学が実施しています。要は、「あの東大」がAOを取り入れるというのが騒がれているわけです。

これまで導入の気配も見せなかった東大が宗旨替えした背景には、大学を改革したいという熱意だけでなく、「東大離れ」現象への危機感も作用しているのではないでしょうか。

たとえば、中学2年生のときにiPhoneアプリ「健康計算機」を開発して中学生プログラマーとして脚光を浴び、その後も各方面で活躍して「スーパーIT高校生」と呼ばれた灘高校の「Tehu(てふ)君」こと張惺(ちょう・さとる)さんは、東大を受験せず、AO入試で慶應大学湘南藤沢キャンパス(通称SFC)に進学しました。「ペーパー試験の一発勝負で自分の価値を判断されてはたまらない」と、その理由を述べています。わたしは彼と直接、大学選びについて語り合う機会を得ましたが、そもそも大学で決められたカリキュラムに沿って学ぶよりも現在社会で広く認められている自分の活動を広げることに意味を感じているということでした。

Tehu君だけではありません。わたしの周囲にいる高校時代から活発に社会活動をしている子たちの中にも、東大ではなくAO入試の私立を志望する者が大勢います。そういえば、高校生起業家として有名になり注目を集めた「うめけん」こと梅崎健理さんも東大でなくSFCに在学していますよね。

彼らは、センター試験の点数を1点でも余計に稼ぐための勉強にのみ励む高校生活を送ってはいません。自分のやりたいことを見つけ、それに向かってまっしぐらに努力した結果で大人も顔負けの成果を挙げています。東大に入るためのペーパー試験をクリアーするために使う時間や労力は、無駄なものにしか思えないのでしょう。このままでは、独創的な才能を持った高校生には忌避され、東大は偏差値秀才ばかりの大学になってしまう、そんな危機感を持つのは、むしろ正常な感覚です。

99年の中央教育審議会答申は、大学側が明確なアドミッション・ポリシーを示すことを求めていますが、今回の推薦制AO入試の予告発表では「東京大学推薦入試のアドミッション・ポリシー」が明確にされました。その中で「入学試験の得点だけを意識した、視野の狭い受験勉強のみに意を注ぐ人よりも、学校の授業の内外で、自らの興味・関心を生かして幅広く学び、その過程で見出されるに違いない諸問題を関連づける広い視野、あるいは自らの問題意識を掘り下げて追究するための深い洞察力を真剣に獲得しようとする人を東京大学は歓迎します」とまで、きっぱり宣言しています。一般入試を受ける「入学試験の得点だけを意識した、視野の狭い受験勉強のみに意を注ぐ人」が気を悪くするのではないかと心配してしまうほどです。

PickUp