2014年3月23日(日)

辻井 喬「オトす3条件――愚直、尊重、たどたどしさ」

PRESIDENT 2012年3月19日号

著者
辻井 喬 つじい・たかし
詩人、作家

辻井 喬

1927年、東京生まれ。本名・堤清二。東京大学経済学部卒業。元セゾングループ代表。91年に経営の第一線を退いた後、作家活動に専念。小説『いつもと同じ春』(平林たい子賞)、『虹の岬』(谷崎潤一郎賞)、『父の肖像』(野間文芸賞)、詩集『群青、わが黙示』(高見順賞)、『自伝詩のためのエスキース』(現代詩人賞)など多数の著書がある。

辻井 喬 構成=村上 敬 撮影=小原孝博
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近頃、財界の方は手紙を書かなくなりました。自戒を込めていいますが、どうもみなさん、筆をとることを面倒がって、パーティで顔を合わせたついでに用件を済ませようとする。手紙を書くと相手の印象に残り効果的だと思うのですが……。

もちろん直接会って話すことを否定するわけではありません。むしろ見知らぬ相手に「自分はこういう者だけど、これこれこういう提案がある」といきなり手紙を出すより、その前に実際に会って、お互いにどんな顔をして、どんな話し方をするのか、知ってもらってから手紙を送ったほうがいい。

ところが若いビジネスマンは、人間的な接触の要素を飛ばして具体的な用件だけを伝えようとする傾向があるような気がします。とくに最近は、いきなりメールでしょう。これはずいぶんと損をしているんじゃないかなあ。

実際に相手に会ったうえでの手紙ならば効果は大きい。手紙やメールを書く行為は、会って話をすることと同じくコミュニケーション手段の一つです。昔の政治家や財界人は、手紙も含めて、さまざまなコミュニケーション手段をうまく使っていた印象があります。

このあいだ書庫を整理していたら、吉田茂さんが私の父親(堤康次郎・西武グループ創業者)に宛てた手紙が十数通出てきました。巻紙に毛筆で書かれているのですが、これが達筆すぎて読みにくい(笑)。

ただ、あれだけ名声のある人なのに威張っている印象がまったくありません。文章そのものは5~6行の簡潔なものばかりですが、使っている紙や筆の運びと相まって、全体から吉田さんの愛嬌がにじみ出ている。手紙を読めば、コミュニケーションに熟達していた人であることがよくわかります。

吉田さんにかぎらず昔の政治家や財界人は愛嬌があって、それが周囲の協力をとりつけるもとになっていました。私もいろいろな方にかわいがってもらいましたが、「こいつは憎めないやつだ」という印象を持ってもらうことには気を配っていた気がします。

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