日産だけが1人負けの状況

両親はレバノン系でブラジル生まれのフランス育ち。フランスのエリート養成校であるグランゼコールに学び、大手タイヤメーカーのミシュランに入社。同社が買収した米タイヤメーカーであるBFグッドリッチを立て直した手腕を大手自動車メーカー、ルノーのルイ・シュバイツァー会長に見込まれて同社に移籍。1999年にシュバイツァー会長の命を受けて資本提携先の日産自動車のCOO(最高執行責任者)に就任、またたくまに2兆円の借金を完済して日産のリバイバルを成し遂げる――。いわずとしれた日産の社長兼CEO(最高経営責任者)、カルロス・ゴーン氏のサクセスストーリーである。現在は日産CEOだけでなく、ルノーでも取締役会長兼CEOの立場にある。

しかし、劇的なV字回復からはや14年、今またゴーン日産は厳しい局面を迎えている。円安効果もあって日本の自動車メーカーの業績が軒並み好転する中、日産だけが低迷。富士重工業、スズキ、マツダ、三菱自動車の下位4メーカーにおいても、史上最高益を出しているのに、日産だけが前年同期比マイナスで1人負けの状況なのだ。

志賀COOを“解任”後、東京モーターショーでプレゼンをするカルロス・ゴーンCEO。(AFLO=写真)

これを受けて11月1日、日産は2014年3月期の通期業績見通しで営業利益を1200億円引き下げた。通期見通しの下方修正は2期連続だ。

ゴーン氏といえば「コミットメントは必達」の経営姿勢を貫いてきた。ソニーの社外取締役をしていたときも、「これは単なるプランなのか、コミットメントなのか。コミットメントでなければ、こんなものは時間の無駄だ」と大見得を切り、目標未達のソニー経営陣を批判した。

その当人が目標未達を許容して、業績見通しの下方修正を繰り返すのは筋が通らない。本来なら経営トップとして自ら責任を取るべきだろう。

しかし、日産が「経営体制の大幅な見直し」として発表したのは、志賀俊之COOの副会長就任とCOO職の廃止だった。今後、販売や生産などを担当する3人の副社長をゴーン氏が直接指揮するというから、責任を取るどころか、No.2を廃止し自らの権限を強化したとの印象は拭えない。ゴーン氏はルノーでも「いつかはCEOを目指したい」と語っていた文字通りNo.2のCOO職にあったカルロス・タバレス氏をクビにしたばかりだ。タバレス氏は競争相手のプジョー・シトロエンのCEOとして早速スカウトされているから、ルノーにとっては2重にマイナスとなっている。これを見てもわかるように、ゴーン氏の独裁者ぶりがあちこちで綻びを生み出しているように見える。