モノが売れない時代にもかかわらず売り上げを40年にわたって伸ばし続けるセブン-イレブン。創設者である鈴木敏文氏の黒字につながるアイデアはどこから生まれてくるのだろうか。その発想の原点に迫った。

利益の源は、顧客の心理の中に埋まっている

セブン&アイ・ホールディングス代表取締役会長兼CEO 鈴木敏文氏

経済もビジネスも人間の心理をもとに考える。感情や心理の世界にいる顧客に対し、売り手は理屈で接してはならない。それがセブン&アイグループを率いる鈴木敏文会長の持論だ。

顧客心理は常に変化するが、売り手はその変化が見えなくなってしまう。その理由を鈴木氏は、こんな例をあげて説明する。

「例えば、私は週末、よくゴルフに行きます。人間、年をとればだんだんと体力も落ちて、前と同じ飛距離が出なくなります。ところが、自分では体力の変化に気づきにくい。あるいは、昔は飛んだという成功体験があるため、変化を容易に受け入れられない。そのため、『こんなはずじゃない』と思ってしまう。これは、売り手の意識と顧客の心理にあてはまります。とかく売り手は過去の経験に縛られ、顧客心理の変化が見えなくなってしまうのです」

では、どうすればその「変化」に気づくことができるようになるのだろうか。鈴木氏の場合、何を見聞きしても、人間の心理を読み取ろうとする習慣が身についているようだ。例えば、ロンドン五輪の際も、昨日まではスポーツに関心を持ていなかった社内の女子社員たちが、「ゆうべも(観戦で)徹夜した」などと急にスポーツファンになり、普段は国のことなどあまり考えてなさそうなのに、「日本、頑張れ!」と“にわか愛国主義者”になる様子を見て、世の中が1つの方向に流れていく大衆心理を感じたという。

「消費税増税は消費者心理が置き去りにされた政策で消費は冷え込む」

鈴木会長はこう断言する。顧客の心理を見抜く心理学経営の達人は消費税増税法案成立のカラクリをこう見抜く。

「消費税増税について世論調査を行うと、賛成が過半を占めました。財政再建には避けて通れないと、多くの人は頭で理解しています。ところが、増税が現実になろうとするにつれ、反対が増えていきました。わが身にふりかかってくると、今度は心理や感情の問題になってくるからです。

今はものがあふれている時代です。消費税が上がるなら、あわてて買わなくていいとみんな思う。消費は落ち込み、経済は縮小し、税収も減る。かけ込み需要も限定的でしょう。今はデフレ脱却が先決で、経済が上向いたタイミングで消費税を議論すべきでした。政策も頭の理屈だけでなく、人間の心理を考えなければならないのです」

利益の源は顧客の心理の中に埋まっている。どうすれば、それを掘り起こすことができるのか。心理学経営が説く「黒字ビジネスを発想するための7つの原則」を見てみよう。