国債や借入金を合わせた国の借金が、6月末で1000兆円を超えた。これを国民1人あたりで割ると、生まれたばかりの赤ん坊から、100歳を超えた高齢者も含めて、1人につき792万円もの借金を背負っていることになる。
このようなニュースが流れるたびに、「日本はギリシャ化する」とか、「財政が破綻して国民の生活は大変なことになる」といった話がさまざまな方面から聞こえてくる。
では、本当にそうなるのか。国家財政の危険水準を推し量るうえで参考になるのは、あらゆる事象を先に織り込みながら推移しているマーケットの動向だ。もし、日本の財政が破綻するとしたら、とっくの昔に長期金利は大幅に跳ね上がり、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ、企業の債務不履行のリスクを対象にした金融派生商品)の保証料率も急騰しているだろう。円安だってもっと急激に進んでいるかもしれない。
それらは、欧州債務危機が高まったとき、ギリシャやスペイン、イタリアなどがすでに実体験したことだ。長期金利は7%を超え、CDS保証料率も大幅に上昇した。ちなみに同債務危機の元凶となったギリシャのCDS保証料率は、2008年の秋口は0.8%近辺で推移していたが、12年3月8日には259.60%を記録している。
では、日本の長期金利はどうなっているのかというと、8月23日時点の10年物国債利回りが0.767%。黒田バズーカが発令された直後の4月4日につけた0.446%からすれば上昇しているが、相変わらず低水準で推移している。
またCDSの保証料率は0.65%にとどまっている。過去5年における日本のCDS保証料率を見ると、最も高かったのが12年1月10日の1.3%で、そこから比べれば格段の低さだ。ちなみにCDS保証料率は2%が要注意水準、4%が危険水準と言われている。
為替も1ドル=75円時代から見れば円安だが、100円前後で落ち着いていることから考えると、別段、日本売りが加速している印象も受けない。
財務省が発表している「国の財務書類(平成23年度)」を見ると、負債が1088兆円ある一方、資産は629兆円。すべての資産を負債の返済に回すことはできないので、このうち現金化しやすいものを拾い上げると、現預金、有価証券、貸付金、出資金で、その合計額が約317兆円。ネットの負債額は、771兆円程度まで圧縮できる。
確かに、借金の総額を見ると圧倒されるが、資産との見合いで考えれば、まだ大台には乗せていない。
加えて、日本の対外純資産が相変わらず世界一であること、個人金融資産が1500兆円あることなどから、何だかんだいってもまだ日本はお金持ちであるという判断が市場参加者の間には働いているように見える。明日にでも日本国債の暴落や急激な円安が起こるというほどまで、事態は切迫していないのが現実だ。
とはいえ、この借金を放置しておくわけにもいかない。このまま借金が増え続ければ、いつかは破綻をきたすだろう。その匂いをマーケットは敏感に嗅ぎつける。その結果、長期金利が急騰すれば、変動金利型の住宅ローンで借りている個人の負担は一気に高まるし、円安が加速すれば、2%以上の物価上昇に見舞われる恐れもある。いずれにしても、そのしわ寄せは家計にくる。
では、個人としてどう対応するべきか。結論として、今すぐに焦って行動する必要はない。ただし今後、急激な円安に備えて外貨建て金融商品を調べたり、またはインフレへの対応として株式や不動産、金などの購入を考えるなど、マーケットが落ち着いているうちに戦略を練っておく必要はありそうだ。