被害者の約7割が認知症。
介護者のストレスが増大、爆発する

介護に追い詰められる人が増えている。日本では依然として「介護は家族がするべきだ」という考え方が主流である。だが核家族化が進み、1人あたりの負担は増えている。本人は「老親のために、できる限り手厚く」と考えているのだろうが、ヘルパーや施設に頼らず介護を行うのは無謀であり、自身を追い詰め、場合によっては「虐待」や「殺人」という意に反した結果にもなりかねない。

虐待の“主役”は男性。厚生労働省の全国調査によれば、介護家庭の虐待者の半数は息子か夫で、被害者の約8割を女性が占める。核家族化で慣れない介護に引っ張り出され、その結果、虐待に走る男性も多い。被害者の約7割は認知症を患っている。

息子や夫が介護虐待・殺人の加害者になりやすい
写真を拡大
息子や夫が介護虐待・殺人の加害者になりやすい

また認知症には激しい嫉妬や物忘れ、徘徊など特有の症状が出現する。「病気」と理解できていないと大きなストレスとなる。認知症への理解度の深さが虐待を防ぐ大きな要素といえる。

虐待には兆候がある。部屋や寝具が汚れてないか。介護者の態度が冷たかったり、投げやりだったりしないか。高齢者に必要な医療や介護サービスを介護家族が拒否していないか――。周囲の人が「何か変だ」と感じたら親族、民生委員、地域包括支援センターに、まず相談すること。1対1ではなく、チームを組むことで長続きする介護ができる。

高齢者介護の苦労は先の見えない点にある。子供は進学や就職などの到達点がある。しかし高齢者は衰えていくばかり。「一体いつまで続くのか」と苛立ちや不安が増す。特に年齢が若い人ほど危ない。虐待の加害者を50歳以上と未満の2グループに分けると、50歳以上は介護開始から虐待まで7年以上を経過しているケースが多い。一方、50歳未満では2~3年で虐待が始まる。「なぜ自分がこんな目にあうのか」という被害者意識が強く働くのだろう。

なお、その場しのぎに休職や退職することは避けたい。経済的な支えがなくなれば外部のサービスを利用しづらくなり、引きこもりがちになる。最終的に「心中」を考える人もいる。
心中といえば聞こえはいいが、「殺人」にほかならない。日本ではなぜか美化されてしまっているが、決して許されない行為だ。

「介護殺人」は虐待の延長線上にある。日本福祉大学の加藤悦子准教授によれば、1998年から2003年までの6年間に生じた「介護殺人」事件は198件で死亡者は201人だった。このうち加害者の続柄は、最も多い息子が約37%、次いで夫が約34%と介護虐待の分布と相似形を描いている。また加害者が嫁や婿だったケースはわずかに4%で、加害者のほとんどが配偶者または血縁の息子や娘である。

愛する家族のため、介護者が追い詰められることのない持続可能な介護体制づくりを、ご近所と一緒に心がけたい。