業績の低下、クレームの多発……

イオンイーハートは、ショッピングセンターを中心に、レストランとフードコート内ショップを展開する。同社の管理本部長兼人事部長を務めるのが本稿の主人公、中村智昭である。

中村が、トップダウン型のリーダーシップはもう通用しないのではないかと痛感した出来事があった。8年ほど前、新業態のレストランを立ち上げ、チェーン展開していた最中である。

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図1 部下の態度はリーダー次第

「当時の私は、新事業開発部の部長として、とにかく新しい事業をつくることに必死で、いままでの慣習を打ち破ろうという思いから、新しいやり方を次々と決めていきました。自分の思いを込めた組織をつくろうと燃えていたわけです。ところが、メンバーたちは従来のやり方を踏襲しがちです。新しい事業なんだから変えないとダメだと強く言い続けるうちに、メンバーのモチベーションはダウンしました」

中村は当時をそう振り返る。入社以来営業畑を歩き、業績をあげてきた自負もある。それが36歳にして、部下との関係につまずき、思うようにいかなくなった。

新規事業の業績は下がりはじめ、事故やお客さまからのクレームが増える。強硬に言えばメンバーは指示には従うが、見るからに渋々という態度だった。「あいつはヤル気がない」と部下への不満が募ってくる。

イオンイーハート 管理本部長 
中村智昭 

1966年、東京都生まれ。大宮工業高校卒。衣料メーカー勤務後、1990年同社入社。営業部長、新事業開発部部長などを経て2010年より人事部長、11年より管理本部長を兼務。

「『第8の習慣リーダーシップ』セミナーで、部下は動機によって行動と態度を選択すると図(図1参照)で説明され、ハッとしました。当時のメンバーは、下から2番目の『不本意だが従う』の状態だったと理解しました」

40歳のときにも同様の経験がある。イオングループの研修で、上司だけでなく同僚や部下の視点も含める360度評価を受けた。全体的なスコアは高かったが、他人の意見を受け入れることや他者尊重に関する項目は平均点以下だった。自分でも薄々気づいてはいたが、こうはっきりと突きつけられたのはショックだった。

「私が新入社員の頃は上司が強くて、嫌なら辞めてしまえと、いまならパワハラ同然の扱いが日常茶飯事でした。自分にもそういうスタイルが残っていましたが、今回のセミナーで、もう古い型のマネジメントは通用しないと原理原則から理解し、納得できました」