バッタ不在という大ピンチに即応し、見事ゴミダマの論文を仕上げたバッタ博士。しかし苦戦は続く。ゴミダマの生態を記録する装置が、ここにはない。ああ、日本ならば100万円の装置が使えるのに……と嘆く前に、バッタ博士は立ち上がる。脳内を流れるのはNHK教育テレビ(現Eテレ)の名作番組「できるかな」のテーマ音楽だ。

100万円の装置が使えない

モーリタニアの首都ヌアクショットの段ボール屋さん。この半年間、雨は降っていない。(撮影=前野ウルド浩太郎)

バッタがいないという非常事態を乗り越えるため、「浮気作戦」を採り、ゴミムシダマシ(ゴミダマ)を研究することになった私(前回参照:http://president.jp/articles/-/9923)。性別判定の論文を書くために読んだ文献から、ゴミダマとサバクトビバッタには実は深いつながりがあることを発見。現地では、バッタを退治するために殺虫剤を散布するのだが、その後に殺虫剤による環境汚染の程度をゴミダマの数で評価しているそうだ。

ゴミダマは翅が退化し飛べないため、移動範囲が限られており、環境汚染の指標として好ましい。以前の研究では、数を調査するのに目視か落とし穴を仕掛けていたが、重要なことが見落とされていた。それは、「いつ」調査するかだ。ゴミダマには昼行性の種と夜行性の種がいる。夜行性の種を昼間に調査すると当然いない。そこだけを見てしまうと、深刻な環境汚染が起こっていると誤解する恐れがある。つまり、きちんと数を調査するためには、調査地域に生息するゴミダマがいつ、どのように活動しているのかを明らかにする必要があるのだ。

しかし、モーリタニアのゴミダマが実際にいつ、どのように動くのか、そこを調べた研究はなかった。今回観察したゴミダマは夜になるとどこからともなく現れ、サハラ砂漠でうごめいていた。研究者は経験ではなくデータで語る必要がある。うし、夜行性であることを証明する実験を組んでやるぜ!

昆虫の活動量を測定するときは、赤外線ビームを使った装置がよく使われる。昆虫を容器の中に一匹入れ、容器中央を横断するレーザーを遮断した回数を自動で記録するのだ。遮った回数が多ければ、活発に動いていることを意味する。私もバッタの活動量を測定するために使用したことがあるが、その装置は100万円近くもした。こういった特殊な装置や設備に頼った研究は、正確かつ楽に作業を進められる反面、どこででもできるわけではない。しかも、私の職場のモーリタニアでは頻繁に停電するため、電気を使った長期に渡る実験を行うのが難しい。こういった悩みは私に限らず、モーリタニアの研究者も抱えていた。