お手製+人力の記録装置を開発し、ゴミダマの観察を始めたバッタ博士。だが、ゴミダマの姿が忽然と消えた。アフリカの大自然に潜む「トゲトゲの何か」が、博士の行く手に立ちふさがる。だが、バッタ博士は「トゲトゲの何か」を殲滅しようとは考えない。博士が見せる「今週のひと工夫」、それは愛。

犯人は誰だ

行動観察装置上で防御態勢に入るトゲの生物。(撮影=前野ウルド浩太郎)

屋外での実験は、私が所属するモーリタニア国立サバクトビバッタ研究所の敷地内で決行した。まず、地面に並べたお手製の行動記録装置にゴミダマを一匹ずつ入れ、予備テストとして定期観察を行う。実験は通常「予備テスト」と呼ばれる小規模のお試し実験を行い、不具合を改良したあとで大規模な「本実験」を行う。不具合に気づかずいきなり本実験を行うと大失敗することもあるため、念入りな予備テストこそが実験成功のカギを握っている。とても大切な儀式なのだ。

野宿中に観察したように、日が暮れるとゴミダマがパイプから出てきて活発に動き始めた。しめしめと思いきや、夜が明けると、足跡だけ残し多数のゴミダマが忽然と姿を消していた。初日はゴミダマが容器から脱走していると思い、容器のフタに「ネズミ返し」をつけて逃げられないようにしたのだが、次の日も止まらない失踪事件。もうね、完全に誰かがオレのゴミダマを盗んでいるね。

あくる日、無残にも噛み千切られたゴミダマを容器内で発見し、疑惑が確信に変わった。何者かが襲撃している、と。よくよく見てみると容器の周りの地面には動物らしき足跡が。誰だっ! 我が実験を妨げる者はなんぴとたりとも許さん!

犯人に対する強い憎しみは、わたくしを3日間連続、2時間置きのパトロールに駆り立てた。初日の深夜、容器上でなにやら物音がし、ライトで照らすと、得体の知れないトゲトゲの化け物が。暗闇の中、シュールな状況に戸惑いを隠せなかったが、ようやく犯人の正体が判明した。犯人は、ハリネズミ。あぁ、実験をした場所が大自然過ぎた。

「実験材料が喰われる」という惨劇を二度と繰り返さないためには、ハリネズミの生態を知る必要がある。一緒に住むことにした。1週間であっさりなついた。過酷なサハラ砂漠で生きている動物として、もう少し野生の威厳を見せて欲しかった。前野家では代々男子には「郎」がつくので、ハリネズミの頭文字をとり、「ハ郎」と名付けました。