中国はなぜ台湾が欲しいのか
第一列島線を突破する上で、台湾には他のどの島をも上回る戦略的価値があります。中国沿岸部全体の中で、台湾はほぼ真ん中に位置していて、小さな島を除く陸地の中で最も中国本土に近い陸地です。また、沿岸部の北半分の港から出る船は多くが台湾海峡を通って南シナ海に進みます。中国にとっての台湾は、アメリカにとってのキューバのようなものです。
台湾は台湾海峡とルソン海峡という2つの大きな航路に面します。もし台湾が外国勢力の手に渡るようなことがあれば、中国はさらに脆弱な状況に陥ります。だからこそ、現状、アメリカや日本が台湾を守るためにさまざまな支援を施していることは、アメリカ人や日本人が思う以上に、中国を刺激するのです。
逆に、中国が台湾を自らの手に収めれば、第一列島線を一気に破ることができます。台湾は太平洋に直接面しているため、その東岸に海軍基地を設ければ、中国海軍は太平洋に安全に出られるようになります。現状では中国は、バシー海峡と宮古海峡から米軍に見つからずに出ることに腐心しています。
「台湾侵攻は倫理的に正しい」
しかし、台湾が手に入ってしまえば、そもそもそのような悩みすら不要になります。アメリカから見れば、これは海の万里の長城の真ん中に大きな穴が開き、遊牧民が雪崩れ込んでくるようなものです。そうなれば、米中の勢力圏の境界は一気に第二列島線(伊豆諸島、小笠原諸島、グアム、サイパン、パプアニューギニア)まで後退し、第一列島線内の米軍駐留基地(沖縄、フィリピンなど)を守ることがますます難しくなります。
「中国の夢」を唱え、習近平氏の考えにも影響を与えているといわれる劉明福大佐は、「統一は平和よりも尊い」、つまり、「台湾を武力統一することは倫理的にも問題ない行いだ」と主張します。アメリカ人は「『平和的解決』『平和的統一』だけが許され、武力を行使してはならない」と言いがちです。
しかし劉氏からすれば、「中国以外のいかなる国、とりわけアメリカにはそのようなことを説教する資格はない」ということです。なぜなら、アメリカには南北戦争という武力を行使して国を統一した歴史があるからです。南北戦争の際には、奴隷制を廃止したい北部の人々に対し、奴隷制を維持したい南部の人々が独立を宣言し、「アメリカ連合国(南部連合)」なる国の成立を表明しました。