もし、強力な大陸国家が海軍を創設したら…
このように強力な大陸国家を放置していると、海洋国家まで危うくなります。普通は、ユーラシア大陸から海で隔てられていれば安全です。しかし、ユーラシア大陸を征服できるような大陸国家が成立した場合は話が別です。なぜなら、その国は、ユーラシア大陸の膨大な資源を活用して、圧倒的に強い海軍を創設し、海を越えて沖合の島々を攻撃できるようになるからです。
上陸作戦は通常難しく、なかなか成功しませんが、圧倒的な戦力を投入すれば成功します。ユーラシア大陸を制覇した国は無敵の海軍を手に入れるので、いくら「上陸作戦が難しい」といっても、イギリスや日本だけでなく、広い海を越えてアメリカさえ征服できるほどの力を持ちます。
まとめると、次のようになります。
②ユーラシア大陸の中で、勢力均衡の原理に基づき潜在覇権国の封じ込めが試みられる
③勢力均衡政策が失敗すると、潜在覇権国はユーラシア大陸全体を征服する
④「覇権国」となった国は、ユーラシア大陸の膨大な資源を活用して大海軍を創設する
⑤覇権国はその大海軍で沖合の島々を征服していく
アメリカがNATOを作った理由
では沖合の島々にある国、すなわち海洋国家はどうやって征服を防げば良いのでしょうか? ③のユーラシア大陸が一度征服された時点では、もはや手遅れです。たとえ上陸して攻撃しようとしても、大陸の陸地がすべて抑えられているので、上陸地が残っていません。
従って、海洋国家が取るべき方策は、勢力均衡の操作となります。②の時点で、勢力均衡は大陸の内部、つまり潜在覇権国と大陸諸国の間で発生します。しかし、③で勢力均衡が失敗した場合、海洋国家は危機に陥ります。よって、海洋国家は大陸にテコ入れして、大陸諸国(対抗連合)の勢力が潜在覇権国と均衡するようにしなければなりません。海洋国家がユーラシア大陸の勢力均衡を保つ方法はさまざまですが、概ね次の3つに集約できます。
①大陸諸国同士の協力を仲介する
具体例:NATO設立。アメリカは冷戦時代に、イギリス・フランス・イタリアなど西欧の10か国に対し、潜在覇権国ソ連から攻撃を受けた場合は、すべての国が協力して守り合うよう呼びかけ、これがNATO設立に至りました。特にフランスは戦後も西ドイツを警戒していましたが、アメリカの仲立ちにより、西ドイツと協力関係を築けました。また、歴史問題で反発し合う日本と韓国に対し、アメリカがそれを乗り越え協力するよう働きかけているのも、この一環です。