なぜ「炭素税」ではなく「賦課金」と呼ぶのか

日本政府はGX賦課金のことをあえて「炭素税」と呼ばないようにしている。

2022年11月に行われた閣議後記者会見のやり取りは非常に興味深いものだった。西村明宏環境大臣(当時)が記者から「炭素税の必要性について明確に議論すべきだ」と問いかけられた際の出来事だ。これに対して、西村大臣は「今御指摘ありましたけれども、確かに総理の発言の中では『賦課金』という言葉になっておりましたが、『賦課金』という言葉が炭素税のことだと承知しておりまして……」と回答している。つまり、日本政府は「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めているのだ。

西村明宏環境相(当時)「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めた=2022年12月27日、東京・霞が関の環境省
写真=時事通信フォト
西村明宏環境相(当時)「GX賦課金は炭素税である」と記者会見で公式に認めた=2022年12月27日、東京・霞が関の環境省

では、何故、政府はこのGX賦課金を明確に「炭素税」として呼ばなかったのか。財務省がGX賦課金を税金として扱いたくない理由は、税金とは異なる賦課金の複雑な徴収方法以外にもある。

実は炭素税は西欧諸国では法人税・所得税減税の原資として使われている。つまり、ストレートに「炭素税導入の是非」として議論をした場合、既存の諸税率の引き下げの議論が必ず生まれてしまう。減税を頑なに拒む財務省にとっては炭素税導入によって減税議論が活発化することは望むところではないのだ。したがって、賦課金の名称で、減税を回避しつつ、実質的な増税を達成することを選んだ、と言えるだろう。

見え隠れする経済産業省の「時代錯誤な野望」

そして、GX賦課金にはその使途を差配する経済産業省の時代錯誤の野望が見え隠れする。

経済産業省は3月27日、2035年を目途とし、官民が連携した複数社が参画する国産旅客機の開発を進めることを明らかにしている。今後10年で官民合わせて5兆円を投資するとしているが、その原資は「GX経済移行債」である。

同省は三菱重工業の「三菱スペースジェット(MSJ、旧MRJ)」に補助金500億円つぎ込んで失敗したことを既に忘れてしまったのだろうか。そして、戦後の航空機産業政策の失敗は愚にもつかない旧通産省がシャシャリ出てきたことこそが問題だったということも。今回のGX経済移行債を食い物にするプロジェクトに複数社が関わることでとても成功するとも思えない。むしろ、責任の所在が不明確になりガバナンスが崩壊、そして大失敗することは予想に難くない。