「国政無党派」をうたう乙武氏のズルい答弁

実は今回の補選では、昨年末の江東区長選のような支援体制を組める見込みは薄くなっていた。自民党には、柿沢氏の辞職の原因となった昨春の江東区長選が分裂選挙となったしこりが残り、都民ファーストと競合する地方議員にも連携への不満がある。

公明党は乙武氏の過去の女性問題を嫌気する声が党内に強く、国民民主は「自民党が推薦を出すような人は応援できない」と斜に構える。「大きな塊」どころか、遠心力のほうが強いのが実情だ。

そういう状況を考慮したのか。乙武氏は、人気のある小池氏の顔だけを前面に出しつつ「まっさらな状態で勝負する」と述べ「国政無党派」を演出した。

結果として都民ファーストは、その後乙武氏の推薦を決め、自民党は推薦を見送った。自民党の推薦見送りをみて、国民民主党が乙武氏を推薦。一見、乙武氏は「野党系」に色分けされたようにみえる。

自民、公明支持票を当て込んでいるのは明らか

しかし、告示直前の13日、乙武氏の街頭演説には、江東区の大久保区長が応援に駆けつけていた。前述したように自民、公明、国民民主の3党と都民ファーストの会の枠組みで当選したばかりの区長である。擁立見送りで行き場を失っている自民、公明支持層のからの集票を当て込んでいるのは明らかだ。

自民党の「推薦見送り」さえ、ある種の「戦術」である可能性をうかがわせる。

乙武氏に限ったことではない。実は平成の時代に「個別の政策実現のためには与党も野党も関係ない」などということを口にする無党派系の候補者は結構いた。与党か野党かの立場をあいまいにすることで、双方の支持者から都合良く集票することが可能だからだ。

「政策実現」のみを目的とするのなら、時の政権与党に与した方が都合がいいに決まっている。こうした立場で選挙を戦った候補の多くが、その後自民党側に軸足を移した。非自民系の無党派層の支持は、やがて「自民党を支持したもの」として回収されていった。